枝物カレンダー:四季を彩る枝物の種類大全

 花屋で見かける美しい枝物たちは、四季折々の風情を象徴し、一年を通してさまざまな表情を見せてくれます。

 この記事では、月ごとに出回る代表的な枝物を紹介し、それぞれの特性を解説します。これを参考に、自然のサイクルを感じながら、季節ごとの枝物の魅力をより深く味わっていただければ幸いです。

目次

枝物カレンダー:四季を彩る枝物の種類大全

一月

松・千両(せんりょう)

 1月の枝物として代表的なのが松と千両。共に正月用花材となります。

 松に関しては、弊社では概ね1月7日頃までの取り扱いとしていますが、千両は旧正月のお祝いにも利用しますので、1月末頃にも在庫は確保しています。

 ちなみに年に一回の松市は12月の初旬頃、千両市は12月の中旬頃に行われます。市(いち)が終われば弊社でも多量の松や千両がありますが、店頭に並ぶのは12月の年末となります。

松の種類

 実は松と一口に言っても種類が豊富にあり、若松、根引松、三光松(さんこうまつ)、大王松(だいおうしょう)、カラゲ松、五葉松、赤松、黒松、蛇の目松など、市場に流通する代表的な松を取ってみても、多くのものがあります。

千両の等級区分

 千両の等級区分は「特上級」・「特級」・「1級」・「2級」・「3級」・「4級」・「5級」の7段階に区分けされ、更に「大」や「鎌付き」、「3房以上」など、等級以外にも長さなどで区分けされていきます。

 等級の差は基本的には実付きの差・枝ぶりの差であり、品質の差ではありません。

苔梅(こけうめ)

 下の画像は市場でこれからセリにかかる直前の苔梅。

 苔梅も正月用花材として流通します。梅は松ほど「正月限定」という訳ではありませんので、2月頃の寒さが最も厳しい時に生けても全く問題ありませんが、その頃の花屋では桜が流通しますので、梅は概ね1月中に使われます。

 上の画像は苔梅と木瓜(ボケ)を使った生け込み。1月上旬の寒さが厳しい日々が続く中で、寒梅をメインに生け込みました。

 上の画像は2月初旬の生け込み。
 3m近い苔梅をノコギリで切り、店舗の玄関に合うようサイズ調整しながら、大きめの生け込みを行いました。

  苔梅はなかなかにシブい雰囲気を醸し出していますが、相対的に根締めの花材を華やかな色合いとし、渋さと華やかさの対照的な生け込みを作りました。

  真っ赤の色合いの花材はスプレーカーネーション。コデマリも入れ、春らしい花材も使っての生け込みです。

使用花材

・苔梅・アルストロメリア・オリエンタルユリ・スナップ・ドラセナ(アトムピンク)・スプレーカーネーション・コデマリ

篠竹(シノ竹)

 篠竹(シノ竹)は別名「雌竹(メダケ)」とも呼びますが、主に関東以西の暖かい地域に自生しています。福島県を含む東北地方では、残念ながら寒さのため自生しておらず、福島県民にとっては珍しい花材となります。

 篠竹は正月用花材として利用されますので、自生している竹自身は年間を通して切り出すことができるとは思いますが、市場で流通するのは年末にかけての季節限定となります。

篠竹と苔梅を使った生け込みについて詳しくは

南天

 南天も正月用花材です。南天は露地栽培となりますので、実が赤くなる12月初旬から年末ごろにかけて市場に流通し、正月に使われます。

 ちなみにこの生け込みで使っている南天は二段実と呼ばれる高級品。一般的な花屋ではほとんど取り扱っていないと思われます。実が二段に連なっているのが分かりますか?

南天を使った生け込みはこちら

二月

 桜は1月下旬頃~3月一杯まで流通します。
 1月下旬から2月頃にかけては主に敬翁桜(けいおうざくら)と東海桜(とうかいざくら)が流通していますが、3月頃になると彼岸桜(ひがんざくら)に主役が交代します。

 桜の品種毎に枝振りや咲いた時の花の色合い等の特性が変わってきます。
 街路樹の桜が咲く4月上旬頃には、切り花としての桜の流通は終わります。

 ちなみに左側の写真は東海桜を使った生け込み。右側の写真は吉野桜を使った生け込みです。同じ「桜」ですが、先述のようにその枝ぶりや花の付き方には品種毎に違いが見られます。

「ソメイヨシノ」はなぜ切り花で流通しないのか

 桜と言えば「ソメイヨシノ」と言われるぐらい代表的な品種ですが、切り花ではソメイヨシノはほぼ流通しません。

 理由は・・・枝が横張りになるため、切り花として使いにくいから。

 庭園できらびやかに咲く品種が、必ずしも切り花(生け込み等)で使いやすい品種とは限らない一例です。
 もっとも、使ってはダメだと言う訳ではありませんが、花屋(使い手)が使いにくい品種は、市場でも売れません。

スノーボール

 2月中旬頃から5月頃まで流通するスノーボール。枝物ですが、下の写真のアジサイのようなグリーンの部分は開花した花となります。

 露地栽培では4月頃から5月頃に開花しますが、2月から3月頃に流通するスノーボールは、促成栽培によって開花したもの。

 促成栽培とは、通常の収穫・出荷時期より早めに収穫・出荷する栽培方法。
 スノーボールは厳冬期に収穫後、最低気温を18度以上に保ちながら6週間ほど維持すると、上の写真のように開花し、2月中旬頃や3月頃の出荷が可能になります。

 促成栽培はスノーボールだけにとどまらず、1月頃の桜や2月の中旬頃から出荷される桃にも適用されますが、露地で自然に咲くよりも早く出荷することで、商品価値を高めています。
 逆に一般的に路地で咲くようになる頃には、花屋での流通・取り扱いはほぼ終了し、次の季節の花材へと移行していきます。

(芽出し)木苺(キイチゴ)

 2月頃~3月頃にかけて流通する芽出し木苺。生け花花材として重宝されます。

 生産者サイドで見ると荒れ地でもよく育ち、肥料もほとんど必要ありません。しかしながら耐寒性が弱い花木で、強い寒さに1~2回逢うと地下部まで枯れてしまいます。

 概ね1月の気温がマイナス5度以下にならない地域が生産に適しますが、当地福島県郡山市では最低気温がマイナス10度になる場合もあるため、おそらく生産が不可。

 上の写真右側は私が生けた芽出し木苺を使った生け花の作例。勢いのある芽が、春を感じさせる花材です。

芽出し木苺には陽表と陽裏があります

 芽出し木苺には陽表(ひおもて)と陽裏(ひうら)があります。つまり、太陽に当たっている面が赤っぽく(陽表)、当たらない場所はグリーンのまま(陽裏)となっています。

 こういった陽表と陽裏がはっきりしている花材は、この「陽表」が見えるように生けることが大切になってきます。

 陽表と陽裏がある花材には、他にも例えば「黒ほおずき」などがあります。

レンギョウ

 2月~3月頃に流通する促成花物の代表品種。直線的な枝物で、花色は濃い黄色。上向き気味に咲きます。

 下の写真はレンギョウも使った演台用生花。レンギョウの黄色とブルーのデルフィニウムの補色対比により、より一層の華やかさが出ています。

 レンギョウの濃い黄色は他の花材にはなかなか無いため、生け方によってはかなり効果的な色合いの花材となります。

三月

 写真は桃の枝物。
 3月の節句に合わせ、2月の中旬頃から桃の流通が始まります。桃に関しては、気温が低すぎると花が紫に変色し、蕾のまま咲かずに終わってしまいますので、弊社ではあまりにも早い段階での桃の仕入れは控えています。

 自然界では桜よりやや遅めに開花します。先述のように寒さに弱い特性を持っていますので、切り花としての温度管理はやや難しい印象を持っています。

ミモザ(ギンヨウアカシア)

 本来のミモザはオジギソウ(ネムノキ科)ですが、一般的に「ミモザ」と呼称が定着しているものは下の写真のギンヨウアカシア(マメ科)となります。

 花屋で2~3月頃に「ミモザ」を注文すると、「オジギソウ」のミモザは絶対に来ません。「ギンヨウアカシア」が来ます。

 下の写真は静岡県大井川産のもの。実際に産地訪問でも話を伺いましたが、このギンヨウアカシアを含めた枝物生産の生産者と生産量は増えているとのこと。

 ギンヨウアカシアは10月頃からの葉物出荷、1月頃の促成栽培、そして2月末~3月中旬にかけての季咲きのものと、収穫期間が5ヶ月以上に及びます。経営の主幹に据えて大規模栽培することもできるのが、生産者と生産量が増えている要因の一つとも思われます。

 毎年3月8日は「ミモザの日」と呼ばれ、日本で母の日にカーネーションが贈られるように、イタリアではミモザを男性が女性へ贈るそうです。

 購入後のポイントとしては、黄色いミモザの花は乾燥に弱いため、霧吹きで適時水を拭きかけるといいです。

 ドライフラワーとしても長く鑑賞できるミモザ。
 フラワーショップアリスでは毎年、2月末から3月上旬にかけての季節限定ですが、ミモザ(ギンヨウアカシア)を取り扱っております。ミモザを入れた花束やアレンジもお作りできます。ミモザの日に合わせて女性に贈ってみてはどうでしょうか?

コデマリ(小手毬)

 1月下旬頃から4月頃にかけてはコデマリ(小手毬)も入荷します。写真はコデマリを利用した演台花。静岡県が主な生産地となります。

 3月頃がコデマリの旬の季節となっており、演台花や祝花に使用するとボリューム感があり、見応えのある仕上がりとなります。

キンバコデマリ(金葉小手毬)

 2月~3月頃に流通するキンバコデマリ(金葉小手毬)。上で紹介したコデマリとは全くの別物。

 春の新芽が美しい黄金色になるため、葉物として切り枝が利用されます。また、耐寒性が強いため、暖地から寒冷地まで幅広く生産できる特徴を持ちます。

 3月は「芽出し木苺」や「レンギョウ」、「コデマリ」や「金葉コデマリ」など、春らしい枝物が豊富に出ます。また、切り花としてチューリップやラナンキュラスなどの種類も豊富であり、年間で一番多様な種類が出回る季節となります。

モクレン類(ハクモクレン・コブシ)

 モクレン(木蓮)の仲間として代表的なものが、下の写真の「ハクモクレン」と「コブシ」。
 ともに3月頃に流通する枝物となります。

 モクレン類は広い圃場で大量に栽培する品種ではありません。また、植え付けから収穫まで年数を要し、切り枝後、次の収穫までに3年~5年ほどかかります。

 そのため、上記の写真のようなハクモクレンやコブシも、市場であまり流通することがありません。

コラム:枝物を使った色彩の組み合わせ

東海桜とレンギョウ、コデマリ、椿、アルストロメリアを使った生け込み

枝物が年間で最も豊富に出回る3月。

写真は東海桜とレンギョウ、コデマリ、椿、アルストロメリアを使った生け込み。

pailトーンの桜とlightトーンのレンギョウ、brightトーンのコデマリと、明清色をメインに使用し、一方でdeepトーンの椿の暗清色を根締めに配し、対照トーンの組み合わせを行いました。

3月となり、気持ちも明るくなる中で、明清色を中心とした色彩配色を行いました。

複数種の枝物の組み合わせでも、多彩な配色が可能となる事例です。

pail・light・bright・deepトーンの補足説明

・p=pale(薄い)トーン:
・純色に白を多量に混ぜた明清色。低彩度だが、淡くて明るく、澄んだ色調。
・トーンイメージ:軽い あっさりした 弱い 優しい 淡い かわいい

・lt=light(浅い)トーン:
・純色に白を混ぜた、澄んだ調子の明るい色調の明清色。
・トーンイメージ:澄んだ さわやかな 子どもっぽい 楽しい

・b=bright(明るい)トーン:
・純色(v)に白を少量混ぜた明清色。澄んだ調子の明るいトーン
・トーンイメージ:健康的な 陽気な 華やかな

・dp=deep(濃い)トーン:
・純色に黒を少量混ぜた暗清色。澄んだ暗い色調。
・トーンイメージ:深い 充実した 伝統的な 和風の

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【PCCS対応】花のトーン一覧

四月 

八重桜

 4月上旬頃には八重桜が流通します。これは、他の桜に比べて開花期が1~2週間ほど遅く、他の桜が散るのと同時期に開花を始めるため。

 下の写真は濃いピンク色の八重桜。もっとも、八重桜とは八重咲きに咲く桜の総称であり、桜の品種ではありません。

林生梅(りんしょうばい)

 下の画像は珍しい枝物「林生梅(りんしょうばい)」。
 福島県の鉄砲屋・高野さんが栽培したもの。露地栽培で4月上旬に出荷されたものです。

 林生梅(リンショウバイ)は、ニワウメ(Prunus japonica)の別称であり、バラ科の落葉樹です。中国が原産地で、広く分布し、特に庭木として植えられます。

 写真は入荷したばかりなので、花はまだ蕾の状態です。
 3月から4月頃にピンクの梅の花に似た花を全体に咲かせ、花径は約2cm前後となります。

花蘇芳(はなずおう)

 下の写真は4月上旬に入荷した花蘇芳。
 上で紹介した林生梅と似ていますが、こちらは中国原産のマメ科ハナズオウ亜科の落葉小高木です。

 こちらも入荷したばかりなので、花は開いていませんが、ピンクの細かい花がたくさんついています。

 下は花蘇芳を使った生け込み。花蘇芳は葉が出る前に花が咲きますので、花が咲いている状態では葉がありません。そのため、生け込みの際には葉物を多用する必要があります。

 花蘇芳は幹も特徴的で、一本一本形状に違いがありますので、枝物の向きをどの方向に向けて生けるかも思案のしどころです。ちなみに矯めは効かないと思います。

ドウダンツツジ

 4月中旬頃からはドウダンツツジが入荷します。ドウダンツツジの入荷時期は4月からおおよそ10月頃までとなりますが、4月頃~夏場にかけてのドウダンツツジは、新緑の青々さを表現するのに最適な花材となります。

 ドウダンツツジは基本的に「山取り」と呼ばれる、自生した山野からの切り出しで市場に出荷されています。

リョウブ

 リョウブ(Viburnum dilatatum)は、北海道南部から九州にかけての丘陵や山の尾根に自生する落葉樹です。リョウブの名称は、若葉が食用になることから、古代には飢饉対策として特別な令法(りょうぼう)でその栽培や管理が行われたことに由来しています。

 こちらのリョウブは4月中旬に入荷したもの。直線の枝が特徴的な枝物です。青々とした若葉の色合いも印象的です。

ツツジ類

紅切ツツジ

 紅切ツツジは日本原産のツツジの一種で、その美しい花は初夏の風景を彩ります。4月に出荷されるものは促成栽培もの。一つ一つの花は小さいですが、無数に咲き乱れる様子は壮観です。
 なお、切り花に主に用いられている代表的なツツジは、ベニキリシマツツジとなります。

 下の写真は紅切ツツジとリョウブ、そしてスノーボールの3種の枝物を使った生け込み。紅切ツツジのピンクとスノーボールの黄緑色を中心とした、色相差10の対照色相配色の生け込みです。

 植物学的には常緑低木で、樹高は1~2メートル程度。生け込み等においては、このツツジのあまたある花をどう生かすかがポイントとなります。

ヤマツツジ

 ヤマツツジは日本の野生ツツジ(ツツジ科ツツジ属)の代表種。本来であれば、ツツジ類(ベニキリシマツツジ・タナツツジ・レンゲツツジ・ミツバツツジ等)は12月~4月に促成栽培により花が付いた状態で出荷されますが、こちらは恐らく山取りでの出荷。4月上旬に出荷されたものを撮影したもの。

 ちなみにドウダンツツジはツツジ科ドウダンツツジ属であり、「ツツジ」と呼ばれていますが、ツツジ属に属さない全くの別種です。

 葉のボリュームという点ではドウダンツツジに劣りますが、葉が小さく可憐な印象を与えます。

 ちなみに上の写真の生け込みはテトラード配色を意識した生け込み。補色としてピンクとグリーン、青と黄色の4色構成で制作を行いました。

五月

バイカウツギ(梅花空木)

 5月中旬頃の季節限定花材であるバイカウツギ。このバイカウツギは、産地訪問で伺った高野さんが生産したものです。

 花の咲く枝物が少ない5月中旬頃の出荷であるため、この時期には非常に人気のある枝物となります。

 バイカウツギは開花期に収穫~出荷となる路地枝物となります。花は美しく上品で、芳香性があります。

六月

スモークツリー

 5月下旬から6月中旬頃にかけては、季節限定の花材としてスモークツリーが入荷します。
 スモークツリーのフワフワとした質感は他の花材で代替できるものではないため、生け方によってはかなり面白い作品に仕上がると思います。

 また、下の写真のようにスモークツリーにはグリーンのものだけでなく、赤っぽいもの(ロイヤルパープル)やピンクがかったもの(ラブリーローズ)などもあります。

姫水木

 別名、日向水木(ヒュウガミズキ)。促成花物として、本来は9月~3月に出回る品種。9月から12月には植物ホルモンの一種であるジベレリンを用いた促成栽培による出荷となります。
 黄色い花が付き、尚且つ葉が無い状態での使用がメインの、早春の枝物となります。

 写真は6月初旬に出荷された姫水木。旺盛で特徴的な形の葉が印象的です。姫水木の本来の使い方(花物としての使い方)とは違いますが、このような特徴的な葉を利用した生け込みやアレンジも面白いと思います。

姫水木

ナナカマド

 ナナカマドはバラ科の落葉高木です。芽吹き物の促成栽培の出荷が1月~3月、自然物(山取り含む)が4月~、実物・紅葉物が9月~10月とほぼ年間を通して流通しています。

 下の写真は6月の中旬に入荷したナナカマド。青々とした実物です。紅葉物は先述のように9月~10月となり、6月頃のこの青々とした実物と比べても、色合いや雰囲気は全く違ったものとなります。

 下の写真はナナカマドと姫水木を使った生け込み。実物の部分はナナカマドで、中央奥に姫水木を使っています。

 野バラなどの実物はまだ6月中旬時点では流通していないため、実物としてこの時期に非常に重宝する枝物となります。

ソケイ

 5月から11月にかけて流通しますが、旬の時期は5月~7月頃となります。

 出始めの5月頃には黄色い花が咲いているものが出回ります。黄色い花は一見きれいですが、花持ちが悪く、1週間と持ちません。また、花が付いている時には水下がりも見られるため、フラワーショップ アリスでは出始めの5月頃の、花が付いたソケイはあまり取り扱わないようにしています。

 ただ、花が終わったソケイは使い勝手が良く、生け込み等に入れても非常にきれいにまとまりますので、旬の時期のソケイはたいへん重宝します。

 上の写真はソケイを使った生け込み。ソケイのグリーンの葉がピンクの花材と調和し、きれいな生け込みとなっています。

七月

紫陽花(アジサイ)

 7月頃には露地栽培の紫陽花の切り花が入荷し、おおよそ9月頃まで流通しています。一方、冬場に流通する紫陽花は基本的に全て海外からの輸入品となります。

 紫陽花の切り花は水揚げ方法に特徴がありますので、ご興味のある方は弊社ブログ記事「紫陽花の生け込みと水揚げの処理方法」をご覧下さい。

シュロの実

 珍しいシュロの実。写真は7月上旬に入荷したものです。

 シュロの実は、シュロ(正確にはヤシの一種であるワシントンヤシ、学名:Washingtonia robusta)から得られる果実のことを指します。シュロ自体は、高さ15~20mに達する大型のヤシの木で、大きな扇型の葉を持っています。

 シュロの実は小さく、通常は直径約1.3cm程度で、熟す前は写真のように緑色、そして熟すと黒か青黒色となります。

 熟した果実は鳥類や他の野生動物によって食べられ、種子は彼らによって広範囲に拡散されます。

 写真のシュロの実は先述のように熟す前のもの。秋頃に熟すようですが、市場に流通するのは熟す前の青々とした実の状態の7月頃となります。

八月

夏ハゼ

 5月頃から秋にかけて、ドウダンツツジと共に夏ハゼも流通します。ドウダンツツジは生け込みに最適な枝物ですが、夏ハゼはどちらかというと生け花に適した花材と考えています。

 ドウダンツツジはすっきりとした葉ですが、夏ハゼは枝が込み入っているため、枝の一部を落とすなどの処理が必要です。この枝を落とす感覚は一定の慣れが必要で、生け花をやっている方ならそれほど難しいものではありませんが、初めての方であればかなり手強い作業と感じられると思います。

 もっとも、この枝を落としてすっきりした夏ハゼを生けると、まるでそこに風が流れ込んでくるような感覚にとらわれます。

夏ハゼは7月頃に実がなります

 下の写真は7月中旬頃の生け込み。夏ハゼは7月中旬頃に実がなります。

 前述のように夏ハゼは葉が込み入っているため、生け込みにおいても、そのままの状態では生けられません。大幅な枝と葉を落とす作業が必要ですが、この実ももったいないと残しすぎると、あまりの実の多さにたいへんなことになりますので、この実もある程度落とさなければなりません。

夏ハゼを使った生け込みの記事はこちら

雪柳(ゆきやなぎ)

 写真は雪柳やアスター等を使った、グリーンとピンクの補色関係を意識した生け込み。

 雪柳は2月頃から10月頃までの長い期間流通します。2月頃は花の咲いた状態で、夏の間は青々とした葉が魅力的な状態で、秋には紅葉がかったように真っ赤に染めて使われます。

ツルウメモドキ

 8月に出回るツルウメモドキは、まだまだ実が青々とした色合いです。ツルウメモドキはなかなか値の張る枝物ですが、特にこの時期に出回るツルウメモドキはなかなかの高級品で、1本あたり税別で1200円ほど。税込で1320円ほどとなります。

 下の写真はツルウメモドキも使ったお祝い用アレンジメント。秋の花材「ワレモコウ(吾亦紅)」も入れていますが、一方で夏の代表的な花材であるヒマワリも入れており、夏から秋に入る直前の、残暑が厳しい時期の季節感も表しています。

九月

紅ヒマ(べにひま)・アマランサス

 8月下旬頃から秋にかけて出る「紅ヒマ(べにひま)」とアマランサス。上の写真手前にある紅ヒマは、アフリカから中東にかけてが原産だそうです。

 紅ヒマは「茎・実・若葉」が赤いのが特徴で、小原流生け花などでも使われます。紅ヒマは使用用途が限定されるため、置いてある花屋も少ないと思われます。フラワーショップ アリスでは生け込みや祝花にて使用します。

 また、上の写真の奥に写っているものが「アマランサス」。古代南米のインカ文明などでは、種子を食用にしていたそうです。

 アマランサスの花はマット基調と言いますか、光沢がありません。光沢が無い花は他にあまりなく、他の花との取り合わせでは一際目立つ存在となっています。また、独特の形状・質感もたいへん面白く、初めて見た方はたいてい驚かれる変わった花となっています。

アマランサス・ケイトウ・ツルウメモドキを使った生け込みの解説

オクラ

 8月中旬頃から10月中旬頃まで流通するオクラ。通常目にする野菜のオクラは、まだ若い実です。

 熟すると、下の写真のように赤くなり、堅くなっていきます。この状態になると、当然ながら食用としては不可となり、花材として利用されます。

 下の写真は10月の上旬頃に制作したオクラを使った生け込み。当然ながらオクラは「矯め(ため)」が効きませんので、直線で生けるしかありません。

 主の花材にするか、脇の花材として利用するかで生け方も変わってくると思いますが、今回は「主」のウメモドキに対する「脇」として5本のオクラを使用し、「実物の秋」を全体で表現してみました。

使用花材

・オクラ・ウメモドキ・ビバーナム・ディスバットマム・染雪柳・オリエンタル百合(マスター)

染雪柳(そめゆきやなぎ)

 下の写真はまだ色付いていない、青々とした実の野バラと染雪柳を使った生け込み。

 雪柳は完全に紅葉してしまうと全く日持ちがしなくなってしまいますので、下の写真のように青々とした葉に赤の塗料で染めて生産者は出荷します。

 上の写真は染雪柳を広げたところ。青々とした雪柳に染料で染めているのが分かりますか?

野バラ

 野バラも8月頃は真っ青な状態ですが、秋になるにつれこちらは自然と赤く色づき、その色づいた実物を生け込み等に使います。

 上の生け込みの野バラはまだそれほど赤く色づいていない状態ですが、下の写真の野バラは真っ赤に色付いた状態です。

 野バラはバラ科野バラ属の落葉低木で、原種のバラです。 5月から7月頃に白や薄ピンクの花を咲かせます。花材としては夏の緑の実の状態の時や秋に赤く熟した実を使います。

 実の付き方が独特で、たいへん面白い花材です。小原流いけばなでも野バラはよく使われます。日保ちもしますので、枝物としておすすめです。

鈴バラ

 鈴バラは9月中~下旬頃に流通します。野バラと違って柔らかい実が特徴です。バラ科の落葉低木であり、枝はバラ特有の「トゲ」があります。

 熟すと赤く色付き、秋らしさが際立ちます。ちなみに実は残念ながら食べられません。

ウメモドキ(梅擬)

 ウメモドキは9月から10月頃にかけて流通する花材です。葉の形が梅の葉に似ていることからこの名があるそうです。
 ウメモドキは高級花材の一つですが、なぜ高いのかと言えば、一つには出荷する際、生産者が全ての葉を取って出荷するため。

 ウメモドキには細かい葉がたくさん付いていますが、この葉を一つ一つ手作業で取るには非常に手間と時間がかかります。以前、葉が付いた状態のウメモドキを競り落としたことがありますが、全ての葉を取るのにかなりの時間を費やしました。

 また、庭木として私の家にも植えてありますが、成長が非常に遅い印象を持ちます。何年経っても、私の家のウメモドキはこの写真のような大ぶりの枝物に成長しません。

白ウメモドキ

 一般的に「ウメモドキ」と言えば上記の赤い実の枝物ですが、下の写真のような「白ウメモドキ」もあります。流通量としては圧倒的に赤い実の「ウメモドキ」となりますが、流通時期は同じ秋頃となります。

 ちなみに下の写真は10月の下旬頃に撮影したものです。

 下は白ウメモドキを使った生け込み事例。赤色の通常のウメモドキと形はほぼ同じですが、色が違うだけでだいぶ印象が変わります。

 栗は9月中旬頃から11月上旬頃まで流通します。

 下の写真は高知県特産の「七立栗」。この栗は観賞用として、小さく鈴なりに重なる「イガ」が特徴的です。

 栗の枝は変化に富んでいるものが少なく、比較的単調なものが多いです。そのため、生け花の世界では枝を魅せるのではなく、「イガ」を強調するために、葉を極端に整理して用います。

雲龍桑(うんりゅうくわ)

 下の写真は雲龍桑。枝物としては概ね8月後半~9月頃に流通します。

 私が小さい頃の福島県本宮市では養蚕が盛んで、近所でもこの雲龍桑の葉を蚕(かいこ)の餌として利用していました。今では雲龍桑を栽培する家庭もほぼなくなりましたが、小さい頃にはこの雲龍桑の熟した実をかなり食べていた思い出があります。

 下の写真は雲龍桑と栗を使った生け込み。プリザーブド処理されたブナの葉である「ファーガス」や、オレンジ色の鈴バラなども使いながら、秋らしい生け込みを作って見ました。

使用花材

・雲龍桑・七立栗・染め雪柳・ファーガス・鈴バラ・リンドウ

十月

豆柿(まめがき)・フォックスフェイス・ツルウメモドキ

 下の写真は豆柿を使った生け込み。
 10月は実物の季節であり、多様な実物が登場します。

 下の左側の写真はフォックスフェイスを使った生け込み。右側の写真はツルウメモドキの生け込みとなります。

 フォックスフェイスは実が狐の顔のように見えるナス化の植物です。別名、別名ツノナス、或いはカナリアナスとも呼ばれておりブラジル原産のナス科の植物となります。

 ツルウメモドキも秋の代表的な実物です。9月から10月にかけて赤橙色の実を実らせながら、蔓が自在に伸びている姿が想像できます。

 これ以外にも、例えばリンゴや栗など、多様な実が付いた枝物が登場します。まさに実りの秋を象徴するかのような生け込みが主となります。

ドウダンツツジ

 ドウダンツツジも真っ赤に紅葉し、4月~夏にかけて生け込んだドウダンツツジの生け込みとは全く違った印象・色合いとなっていきます。

ボケ(木瓜)

 10月から翌年の3月頃まで流通するボケ(木瓜)。秋は露地栽培、初春の頃には促成栽培での出荷となります。

 下の写真は2月に生けたボケ(木瓜)と洋花の組み合わせ。

 従来、枝物のボケは生け花での使用が中心でしたが、今回はラナンキュラスやバラ、プロテアなどと組み合わせてみました。

 今回は和洋折衷のような花材の組み合わせとなっていますが、生け花の花材も従来の固定した使われ方だけでなく、思い切って洋花と組み合わせてみるなどの斬新な使い方も必要であると考えています。

使用花材

・ボケ(木瓜)・プロテア(ピンクミンク・ラナンキュラス・ドラセナ・ヒペリカム・アレカヤシ・エリンジューム・バラ(ハロウィン)

アロニア

 北米原産のバラ科の植物。花材としては10月頃に流通しますが、流通量は少なく、希少種となっています。

 黒く熟すと食用としても利用されますが、花材としては熟す前の赤やオレンジの実のものを使います。

 下の写真はアロニアを使った生け込み。10月中旬頃に作成したものです。

 アロニアの葉はすぐに痛んでしまいますので、枝に残っている場合は取り除いて生け込みます。
 今回はファーガスやオクラ、ピンク色の紫陽花等も利用しながら、黄色~赤を中心とした秋らしい色合いでお作りしました。

十一月

 11月頃からはいよいよ柳の登場です。

 ひとくくりに柳と言っても、例えば「雲龍柳(うんりゅうやなぎ)」「赤芽柳(あかめやなぎ)」「行李柳(こうりやなぎ)」「石化柳(せっかやなぎ)」など、多様な柳が登場し、その外観等も全く異なってきます。

 ただ、いずれの柳も「矯め(ため)」が効くため、生け込みにおいても枝一本一本をそのまま使うだけでなく、矯めて(曲げて)使うなど、制作者の意向に沿うような形で自由自在に形を作りながら生け込む場合もあります。

 ちなみに「柳は3月まで」と言われますが、冬場から3月にかけては、これら柳が主の枝物となってきます。

柳について知りたい方は

ハンノキ(ヤシャブシ)

 この枝物は正確にはヤシャブシ(カバノキ科ハンノキ属の落葉高木)ですが、市場に入荷する際には、一般的に「ハンノキ」として流通します。ここでは、市場に入荷する花材名に倣い、ハンノキと用語を統一して記載することにします。

 ハンノキ(ヤシャブシ)は福島県以南から太平洋側に沿って四国、九州に連なる低山・平野に自生します。当地福島県郡山市では、寒さのためか、まず見たことのない枝物となります。

 ハンノキは11月上旬の入荷したばかりの時には実がまだ若く緑色をしていましたが、水を張ったバケツに入れておくと実が次第に黒っぽくなってきます。

 ハンノキの実は形状が独特であるため、実単体ではアクセサリーやインテリアに使われます。更にタンニンを多く含んでいるため、水槽の水質改善、草木染め等の広い用途にも使われます。

椿(ツバキ)

 10月頃から3月頃まで流通する椿。お茶(茶道)のお稽古では必須の花となります。しかしながら現在は、茶道人口が20年前、或いは30年前に比べかなり減少しており、それに伴って椿の需要もかなり減少しております。

 10月から1月にかけては路地栽培での出荷、2月から3月にかけては促成栽培での出荷となります。ちなみに椿は収穫が十分上がるまでに15年~20年の期間を要します。

 上の写真は2月末に撮影したもの。市場でこれからセリにかけられる直前の椿となります。

ウインターベリー(西洋ウメモドキ)

 下の写真の実物はウインターベリーとも呼ばれる西洋ウメモドキ。10月頃からクリスマスシーズン、そして1月にかけて流通します。ちなみにこのウインターベリーは北米原産であり、日本原産のウメモドキとは別種です。

 上の写真の生け込みでは、赤に対して補色となるグリーンを葉物を3種類使用し、赤がより強調するよう配色の工夫をしました。

使用花材

・ウインターベリー(西洋ウメモドキ)・アルストロメリア・オリエンタルユリ・ドラセナ・ユーカリ・丸葉ルスカス

十二月

西洋ヒイラギ

 12月初旬から松や千両などの正月用の枝物が入荷しますが、一方でクリスマス用の花材として、下の写真のような銀色に染めた西洋ヒイラギや、白に染めた柳などが入荷します。

 このクリスマス用の花材をもって、紅葉した花材や実物の付いた枝物の使用も終わることとなり、一気に冬の生け込みへと変化していきます。

ブルーアイス(コニファー)

 下の写真は北米原産のコニファー「ブルーアイス」。針葉樹林のため年中この形状を維持しますが、クリスマス用の花材として主に12月出荷されます。

 「ブルーアイス」はその鮮やかな青い針葉で知られており、生け込みやアレンジに入れてもきれいな仕上がりとなります。

 下の写真はクリスマスのパーティー用に赤バラ100本を使ったスタンド花。赤の対比として「ブルーアイス」を含めたグリーンの葉物をふんだんに使い、補色効果として赤バラをより際立たせるようにしてみました。

 今回の「ブルーアイス」は1mぐらいの長さで入荷しましたが、スタンド花に合うようノコギリ等で適時切りながら制作しました。

 「ブルーアイス」単体でもなかなかのボリューム感が出せることが、画像を見てご理解頂けると思います。

使用花材

・赤バラ(アマダ+)・ブルーアイス・ドラセナ・アイビー・アレカヤシ・珊瑚水木・スチールグラス

結びに

 生け込みにおいても、またアレンジ等を作るにあたっても、花材としての枝物はかなり重要な役割を担っています。そこが枝物の面白さでもあり、生け込み等においての工夫のしどころでもあります。

この記事を書いた人

菊地充智
菊地充智代表取締役社長
 こんにちは。フラワーショップ アリスの代表取締役、菊地 充智と申します。
 福島県本宮市出身で、元々は教員として子どもたちの教育に尽力していました。その経験は私にとって大切な基礎となり、人と心を通わせる重要性や、強い絆を築くことの意味を深く理解させてくれました。

 2007年、私は新たな挑戦としてフラワーショップ アリスに加わりました。それ以来、花々と共に日々成長し、お客様に最善のサービスを提供するために常に努力しています。
 そして、花の美しさとそれぞれの物語をより深く理解し、お客様に届けるため、全国の花の産地を訪れています。

 私の経営理念は、お客様に最高の満足を提供し、常に改善と修正を行いながら、お客様にとってベストの選択を追求することです。この理念は、私が書く文章にも反映されています。

 皆さんが私の記事を通して、花の世界の美しさや、そこに込められた物語を感じ取っていただければ幸いです。それが私が記事を書く大きなモチベーションとなっています。どうぞよろしくお願いいたします。

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