枝物カレンダー

 花屋では1年を通して、多様な種類の枝物が流通します。
 本記事では、月毎に代表的な枝物をいくつか取り上げました。何月頃にどんな枝物が入るかの参考にしていただければ幸いです。

枝物カレンダー

一月

松・千両(せんりょう)

 1月の枝物として代表的なのが松と千両。共に正月用花材となります。

 松に関しては、弊社では概ね1月7日頃までの取り扱いとしていますが、千両は旧正月のお祝いにも利用しますので、1月末頃にも在庫は確保しています。

 ちなみに年に一回の松市は12月の初旬頃、千両市は12月の中旬頃に行われます。市(いち)が終われば弊社でも多量の松や千両がありますが、店頭に並ぶのは12月の年末となります。

苔梅(こけうめ)

 下の画像は市場でこれからセリにかかる直前の苔梅。

 苔梅も正月用花材として流通します。梅は松ほど「正月限定」という訳ではありませんので、2月頃の寒さが最も厳しい時に生けても全く問題ありませんが、その頃の花屋では桜が流通しますので、梅は概ね1月中に使われます。

篠竹(シノ竹)

 篠竹(シノ竹)は別名「雌竹(メダケ)」とも呼びますが、主に関東以西の暖かい地域に自生しています。福島県を含む東北地方では、残念ながら寒さのため自生しておらず、福島県民にとっては珍しい花材となります。

 篠竹は正月用花材として利用されますので、自生している竹自身は年間を通して切り出すことができるとは思いますが、市場で流通するのは年末にかけての季節限定となります。

南天

 南天も正月用花材です。南天は露地栽培となりますので、実が赤くなる12月初旬から年末ごろにかけて市場に流通し、正月に使われます。

 ちなみにこの生け込みで使っている南天は二段実と呼ばれる高級品。一般的な花屋ではほとんど取り扱っていないと思われます。実が二段に連なっているのが分かりますか?

二月

 桜は1月下旬頃~3月一杯まで流通します。
 1月下旬から2月頃にかけては主に敬翁桜(けいおうざくら)と東海桜(とうかいざくら)が流通していますが、3月頃になると彼岸桜(ひがんざくら)に主役が交代します。

 桜の品種毎に枝振りや咲いた時の花の色合い等の特性が変わってきます。
 街路樹の桜が咲く4月上旬頃には、切り花としての桜の流通は終わります。

 ちなみに左側の写真は東海桜を使った生け込み。右側の写真は吉野桜を使った生け込みです。同じ「桜」ですが、先述のようにその枝ぶりや花の付き方には品種毎に違いが見られます。

三月

 写真は桃の枝物。
 3月の節句に合わせ、2月の中旬頃から桃の流通が始まります。桃に関しては、気温が低すぎると花が紫に変色し、蕾のまま咲かずに終わってしまいますので、弊社ではあまりにも早い段階での桃の仕入れは控えています。

 自然界では桜よりやや遅めに開花します。先述のように寒さに弱い特性を持っていますので、切り花としての温度管理はやや難しい印象を持っています。

コデマリ

 1月下旬頃から4月頃にかけては小手毬(コデマリ)も入荷します。写真はコデマリを利用した演台花。静岡県が主な生産地となります。

 3月頃がコデマリの旬の季節となっており、演台花や祝花に使用するとボリューム感があり、見応えのある仕上がりとなります。

四月~五月 

ドウダンツツジ

 4月中旬頃からはドウダンツツジが入荷します。ドウダンツツジの入荷時期は4月からおおよそ10月頃までとなりますが、4月頃~夏場にかけてのドウダンツツジは、新緑の青々さを表現するのに最適な花材となります。

 ドウダンツツジは基本的に「山取り」と呼ばれる、自生した山野からの切り出しで市場に出荷されています。
 4月中旬頃から5月頃にかけては、他の枝物はあまり流通しておらず、基本的にはドウダンツツジがメインの枝物となります。

六月

スモークツリー

 5月下旬から6月中旬頃にかけては、季節限定の花材としてスモークツリーが入荷します。
 スモークツリーのフワフワとした質感は他の花材で代替できるものではないため、生け方によってはかなり面白い作品に仕上がると思います。

七月

紫陽花(アジサイ)

 7月頃には露地栽培の紫陽花の切り花が入荷し、おおよそ9月頃まで流通しています。一方、冬場に流通する紫陽花は基本的に全て海外からの輸入品となります。

 紫陽花の切り花は水揚げ方法に特徴がありますので、ご興味のある方は弊社ブログ記事「紫陽花の生け込みと水揚げの処理方法」をご覧下さい。

八月

夏ハゼ

 5月頃から秋にかけて、ドウダンツツジと共に夏ハゼも流通します。ドウダンツツジは生け込みに最適な枝物ですが、夏ハゼはどちらかというと生け花に適した花材と考えています。

 ドウダンツツジはすっきりとした葉ですが、夏ハゼは枝が込み入っているため、枝の一部を落とすなどの処理が必要です。この枝を落とす感覚は一定の慣れが必要で、生け花をやっている方ならそれほど難しいものではありませんが、初めての方であればかなり手強い作業と感じられると思います。

 もっとも、この枝を落としてすっきりした夏ハゼを生けると、まるでそこに風が流れ込んでくるような感覚にとらわれます。

夏ハゼは7月頃に実がなります

 下の写真は7月中旬頃の生け込み。夏ハゼは7月中旬頃に実がなります。

 前述のように夏ハゼは葉が込み入っているため、生け込みにおいても、そのままの状態では生けられません。大幅な枝と葉を落とす作業が必要ですが、この実ももったいないと残しすぎると、あまりの実の多さにたいへんなことになりますので、この実もある程度落とさなければなりません。

雪柳(ゆきやなぎ)

 写真は雪柳やアスター等を使った、グリーンとピンクの補色関係を意識した生け込み。

 雪柳は2月頃から10月頃までの長い期間流通します。2月頃は花の咲いた状態で、夏の間は青々とした葉が魅力的な状態で、秋には紅葉がかったように真っ赤に染めて使われます。

ツルウメモドキ

 8月に出回るツルウメモドキは、まだまだ実が青々とした色合いです。ツルウメモドキはなかなか値の張る枝物ですが、特にこの時期に出回るツルウメモドキはなかなかの高級品で、1本あたり税別で1200円ほど。税込で1320円ほどとなります。

 下の写真はツルウメモドキも使ったお祝い用アレンジメント。秋の花材「ワレモコウ(吾亦紅)」も入れていますが、一方で夏の代表的な花材であるヒマワリも入れており、夏から秋に入る直前の、残暑が厳しい時期の季節感も表しています。

九月

紅ヒマ(べにひま)・アマランサス

 8月下旬頃から秋にかけて出る「紅ヒマ(べにひま)」とアマランサス。上の写真手前にある紅ヒマは、アフリカから中東にかけてが原産だそうです。

 紅ヒマは「茎・実・若葉」が赤いのが特徴で、小原流生け花などでも使われます。紅ヒマは使用用途が限定されるため、置いてある花屋も少ないと思われます。フラワーショップ アリスでは生け込みや祝花にて使用します。

 また、上の写真の奥に写っているものが「アマランサス」。古代南米のインカ文明などでは、種子を食用にしていたそうです。

 アマランサスの花はマット基調と言いますか、光沢がありません。光沢が無い花は他にあまりなく、他の花との取り合わせでは一際目立つ存在となっています。また、独特の形状・質感もたいへん面白く、初めて見た方はたいてい驚かれる変わった花となっています。

染雪柳(そめゆきやなぎ)

 下の写真はまだ色付いていない、青々とした実の野バラと染雪柳を使った生け込み。

 雪柳は完全に紅葉してしまうと全く日持ちがしなくなってしまいますので、下の写真のように青々とした葉に赤の塗料で染めて生産者は出荷します。

 上の写真は染雪柳を広げたところ。青々とした雪柳に染料で染めているのが分かりますか?

野バラ

 野バラも8月頃は真っ青な状態ですが、秋になるにつれこちらは自然と赤く色づき、その色づいた実物を生け込み等に使います。

 上の生け込みの野バラはまだそれほど赤く色づいていない状態ですが、下の写真の野バラは真っ赤に色付いた状態です。

 野バラはバラ科野バラ属の落葉低木で、原種のバラです。 5月から7月頃に白や薄ピンクの花を咲かせます。花材としては夏の緑の実の状態の時や秋に赤く熟した実を使います。

 実の付き方が独特で、たいへん面白い花材です。小原流いけばなでも野バラはよく使われます。日保ちもしますので、枝物としておすすめです。

ウメモドキ(梅擬)

 ウメモドキは9月から10月頃にかけて流通する花材です。葉の形が梅の葉に似ていることからこの名があるそうです。
 ウメモドキは高級花材の一つですが、なぜ高いのかと言えば、一つには出荷する際、生産者が全ての葉を取って出荷するため。

 ウメモドキには細かい葉がたくさん付いていますが、この葉を一つ一つ手作業で取るには非常に手間と時間がかかります。以前、葉が付いた状態のウメモドキを競り落としたことがありますが、全ての葉を取るのにかなりの時間を費やしました。

 また、庭木として私の家にも植えてありますが、成長が非常に遅い印象を持ちます。何年経っても、私の家のウメモドキはこの写真のような大ぶりの枝物に成長しません。

 条件が適すればもっと早く成長するのかもしれませんが、市場でこのような大ぶりのウメモドキを見るにつれ、「何年の月日が経ったのだろう」「葉を取るのもたいへんだっただろうな」などの感想を持ちながら、セリに参加しています。

十月

豆柿(まめがき)・フォックスフェイス・ツルウメモドキ

 下の写真は豆柿を使った生け込み。
 10月は実物の季節であり、多様な実物が登場します。

 下の左側の写真はフォックスフェイスを使った生け込み。右側の写真はツルウメモドキの生け込みとなります。

 フォックスフェイスは実が狐の顔のように見えるナス化の植物です。別名、別名ツノナス、或いはカナリアナスとも呼ばれておりブラジル原産のナス科の植物となります。

 ツルウメモドキも秋の代表的な実物です。9月から10月にかけて赤橙色の実を実らせながら、蔓が自在に伸びている姿が想像できます。

 これ以外にも、例えばリンゴや栗など、多様な実が付いた枝物が登場します。まさに実りの秋を象徴するかのような生け込みが主となります。

ドウダンツツジ

 ドウダンツツジも真っ赤に紅葉し、4月~夏にかけて生け込んだドウダンツツジの生け込みとは全く違った印象・色合いとなっていきます。

十一月

 11月頃からはいよいよ柳の登場です。

 ひとくくりに柳と言っても、例えば「雲龍柳(うんりゅうやなぎ)」「赤芽柳(あかめやなぎ)」「行李柳(こうりやなぎ)」「石化柳(せっかやなぎ)」など、多様な柳が登場し、その外観等も全く異なってきます。

 ただ、いずれの柳も「矯め(ため)」が効くため、生け込みにおいても枝一本一本をそのまま使うだけでなく、矯めて(曲げて)使うなど、制作者の意向に沿うような形で自由自在に形を作りながら生け込む場合もあります。

 ちなみに「柳は3月まで」と言われますが、冬場から3月にかけては、これら柳が主の枝物となってきます。

十二月

西洋ヒイラギ

 12月初旬から松や千両などの正月用の枝物が入荷しますが、一方でクリスマス用の花材として、下の写真のような銀色に染めた西洋ヒイラギや、白に染めた柳などが入荷します。

 このクリスマス用の花材をもって、紅葉した花材や実物の付いた枝物の使用も終わることとなり、一気に冬の生け込みへと変化していきます。

 生け込みにおいても、またアレンジ等を作るにあたっても、花材としての枝物はかなり重要な役割を担っています。そこが枝物の面白さでもあり、生け込み等においての工夫のしどころでもあります。