TPOに応じた花材選び③ ~晩夏から初秋にかけての季節の変わり目を表現する~
日が暮れるのも少しずつ早まり、夜になると虫の音も聞こえるようになってきました。
昨日までは暑い日々が続いていましたが、今日は雨もあってか、めっきりと涼しくなり、晩夏から初秋への変わり目が訪れたように感じます。
そんな季節の変わり目に流通するガマを、生け込みの中心に据えてみました。
ガマは水辺に自生する植物ですが、近年では休耕田も多くなり、その虫食い上の休耕田のあちらこちらにガマが自生する様子も見受けられます。
東京の方では、ガマはもちろんですがススキでさえも市場にて売買されるようです。振り返ってみると、そこら中に当たり前のように生えているススキも、東京では珍しい植物なのかもしれません。
今回は、晩夏から初秋への変わり目をテーマに生けてみました。
秋というと真っ赤な花材をイメージしますが、晩夏から初秋にかけては、まだ全ての植物が真っ赤に紅葉している訳ではなく、ところどろこに紅葉していない青色の植物も存在します。
今回はそんな紅葉に染まっていない青い植物を、グリーンの紫陽花で表現してみました。このグリーンの紫陽花(アナベル)はこの時期によく流通しますが、ボリューム感があり存在感十分です。
また、紅葉を表現するにはかかせない定番の染め雪柳だけでなく、今回は茶系のドラセナとともに、赤い蘭であるレナンセラレッドも生け込んでみました。
このレナンセラレッドは台湾産です。台湾の温暖な気候が蘭の生育に最適であり、オンシジュームを含め、質の良い蘭が多く入荷しています。
秋を表現する場合、赤の花材は必須ですが、彩度が高いビビッドな花材はあまり適さないと考えています。例えば赤の一輪カーネーションなど、あまりにもはっきりとした「赤」は、その花材だけが浮き上がってしまい、全体の調和が崩れてしまう気がします。
以前、アマランサスの生け込みを行いましたが、秋をテーマにした花材であれば、やはりこのぐらいマット基調の艶が消えた花材を選定した方が、所謂「秋らしい」趣になるのではないかと考えています。
そういう意味では、このレナンセラレッドはくすんだ赤であり、秋を表現する場面において最適な花材であると思われます。
前回の生け込みでは晩夏を、今回の生け込みでは晩夏から初秋にかけてをテーマに表現してみました。
秋と言えば実物ですが、まだそこまで深まっていない初秋の生け込みとして、今回はグリーンの紫陽花も組み入れました。
ところどころに茶色のスプレー菊も配しながら、これから深まりゆく秋を楽しみにし、そして晩夏からの別れを迎えています。
(追記)
納品4日目の生け込みの様子。
ガマの葉先が痛んできましたが、その先端の痛み具合が初秋の生け込みの雰囲気と絶妙にマッチし、エモーショナル(情緒的)な雰囲気を醸し出しています。
生花は造花と違い日を追うにつれて変化していきます。そしてその変化が、造花とは全く違う、大きな魅力だと感じています。
使用花材
・ガマ・紫陽花(アナベル)・染め雪柳・レナンセラレッド・スプレー菊・ドラセナ