正月花材ガイド:若松から三光松まで、松の種類とその特性

 新年には、お祝いや希望の象徴として様々な縁起物が用いられますが、その中でも松は日本の伝統的な正月飾りとして、また、生け花などの花材として広く使われています。

 しかし、「松」と一言で言っても、その種類や名称は非常に豊富で、若松・根引松・三光松(さんこうまつ)・大王松(だいおうしょう)・カラゲ松・五葉松(ごようまつ)・赤松・黒松・蛇の目松(じゃのめまつ)などと、多くのバリエーションがあります。

 そんな松の世界をより深く理解するために、本記事では各松の特性や魅力、そしてその使い道を、具体的な生け込みの画像を交えてご紹介します。

正月花材ガイド:若松から三光松まで、松の種類とその特性

若松(わかまつ)

若松は黒松の徒長苗

 代表的な松として、下の画像の若松があります。若松は黒松の徒長苗(とちょうなえ)です。

 徒長苗(とちょうなえ)とは、植物が過剰に長く、細く、弱々しい成長をする現象を指します。

 本来、黒松は横にも枝を張って成長していきますが、この黒松を故意に密植し、互いに光を奪い合い、上方に伸びることで光を得ようと仕向けることで、真っ直ぐのほぼ直線上の枝ぶりへと仕立て上げていきます。

若松の等級

 若松は1等から5等までの等級がありますが、等級区分は品質ではなく、太さや長さとなります。

 生け込みでは1等や2等の若松を使いますが、アレンジでは1等や2等は太すぎますので、3等の細めのものを多く使います。3等より更に細くて短い若松は4等や5等、カラゲ松などと言います。こちらもアレンジ等に使います。

 若松はその柔軟性と美しさから、さまざまなシーンで使用され、楽しまれています。若々しさと力強さを兼ね備えたその姿は、新年の飾り付けやお祝いの場など、様々な場面でその美しさを発揮します。

 ちなみに上の画像の若松は2等のもの。2等といえども、スタンド花に使うには十分の太さと長さです。

黒松(くろまつ)

 下の画像は黒松です。密植して真っ直ぐの枝ぶりに仕立て上げた若松と大分違う形ですが、同じ品種です。しかし、生け込みに使うとまた違った雰囲気になりますね。

 黒松は、日本を代表する松の一つであり、その美しさから庭木や盆栽としても非常に人気があります。

 生け込みに黒松を使う場合、その存在感と風格は作品全体に力強さと自然の美をもたらします。特に大王松と比較すると、黒松はより野性的で力強いイメージを生け込みに与え、視覚的な強度と引き立て役としての役割を果たします。

赤松(あかまつ)

赤松の別称

 赤松は「女松(めまつ)」とも呼ばれています。この呼称は、主に赤松の樹形や特徴から来ています。
 赤松は、そのしなやかで繊細な枝ぶりや、葉の細さなどから、女性的な美しさを連想させることが多く、こうした特性から「女松(めまつ)」と呼ばれるようになりました。

 また、赤松に対して「黒松」は「男松(おとこまつ)」とも呼ばれます。これは、黒松が赤松に比べてより粗く、力強い枝ぶりを持つことから、男性的なイメージがあるためです。

赤松の生け込み事例

 下の写真は病院のエントランスにおける正月用生け込み。2mの赤松を主の花材として制作しました。

 先述のように黒松に比べてしなやかな枝ぶりが画像を見てお分かりになるかと思います。

大王松(だいおうしょう)

大王松の特徴

 続いて大王松(だいおうしょう)。こちらは葉のボリュームがあります。幹が非常に太いため、アレンジには不適です。主に生け込み用に使われます。

 大王松は、松類の中では世界一長い葉を持つ、北アメリカを原産とする松です。巨木になり、松ぼっくりも巨大なものになります。
 まさしく松の大王です。

 成長過程について言えば、大王松は急速に成長し、その成長はまさに巨大な王にふさわしいものです。苗木から大木への成長は数十年を要し、その間に根系も広範囲に広がり、その立派な姿を形成します。

大王松を使った制作事例

 下の写真は大王松を中央部分に入れてみました。この大王松は、やや細めのものを使用しています。

 下の写真のホテルエントランスの生け込みでは、奥に三光松、手前は大王松を使用しました。

 下の写真は大王松と赤松を使った生け込み。温泉施設でのエントランス用として制作しました。

 弊社では大王松をこのような大きめの生け込みにおいて使用します。後方に2.1mの赤松、手前に大王松を据え、赤松で高さを取りながら、手前の大王松でボリューム感を出してみました。

 もっとも大王松は、この規模の生け込みでは入れても2本まで。3本以上を入れようとすると葉のボリューム感はかなり出ますが、千両などそれ以外の花が入れられなくなります。

三光松(さんこうまつ)

三光松の特徴

 三光松は、葉がポッ、ポッと締まった形でまとまって出ています。三光松は、その美しい葉の形状と豊かな緑色から、視覚的にも魅力的な松とされています。

 しかしこの三光松は、黒松を仕立てて作ったものであり、若松やカラゲ松と同様、元々は同じ黒松となります。

 この三光松は幹の長さや太さは色々なものが流通していますので、生け込みからアレンジまで幅広く使われます。

 上の写真は三光松を使ったアレンジメント。こちらは小ぶりの三光松を使用して制作しました。

三光松の価格と若松の流通割合

 下の写真はこれからセリにかかる三光松を中心に撮影したもの。この写真で手前の台車に乗っている短めの三光松は、人工的に苔を付けて出荷されています。

 三光松は密植して栽培した若松に比べ、出荷するまでの手間が非常にかかっているため、ほぼ同じ大きさである場合、価格的には若松の2倍~5倍程度、或いはそれ以上となります。

 もちろん、毎年のセリ値が変動するため、一概にいくらと決めつけることができませんが、若松よりも価格が高いという認識で宜しいかと思います。

 もっとも、流通量は若松の方が圧倒的で、セリにかかる割合の70~80%が若松。他の松は合計しても20%ぐらいでしょうか。
 当然ながらこの割合は地域によって、また年度によっても変わってくると思いますが、私の感覚としてはこのぐらいの出荷量の割合と認識しています。

まとめ

 松はまだまだ種類があり、ご紹介したものはほんの一部です。

 松は日本の伝統的な風景の一部であり、正月には縁起の良い象徴として愛されています。

 当店も多くの種類の松を年末に取り扱っております。単品販売も致しますので、ご入用の際には、お気軽にお申し付け下さい。

この記事を書いた人

菊地充智
菊地充智代表取締役社長
 こんにちは。フラワーショップ アリスの代表取締役、菊地 充智と申します。
 福島県本宮市出身で、元々は教員として子どもたちの教育に尽力していました。その経験は私にとって大切な基礎となり、人と心を通わせる重要性や、強い絆を築くことの意味を深く理解させてくれました。

 2007年、私は新たな挑戦としてフラワーショップ アリスに加わりました。それ以来、花々と共に日々成長し、お客様に最善のサービスを提供するために常に努力しています。
 そして、花の美しさとそれぞれの物語をより深く理解し、お客様に届けるため、全国の花の産地を訪れています。

 私の経営理念は、お客様に最高の満足を提供し、常に改善と修正を行いながら、お客様にとってベストの選択を追求することです。この理念は、私が書く文章にも反映されています。

 皆さんが私の記事を通して、花の世界の美しさや、そこに込められた物語を感じ取っていただければ幸いです。それが私が記事を書く大きなモチベーションとなっています。どうぞよろしくお願いいたします。

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