対称vs非対称:フラワーデザインにおける西洋と日本の文化比較
対称性(symmetry・シンメトリー)とは、中心軸を挟んで左右が鏡像のように一致するデザインのことを指します。
これに対して、非対称性(asymmetry・アシンメトリー)は、そのバランスが均等でなく、各要素が異なる位置や大きさで配置されることにより、より自由な形と動きを生み出します。
フラワーデザインにおいては、構想の段階で対称性と非対称性のどちらを採用するかに始まり、最終的なアレンジや生け込みとして作品を作り上げていきます。
本記事では、「対称vs非対称」という観点から、西洋と日本の花に対する文化の違いについて言及し、更にフラワーショップ アリスのフラワーデザインについてもご紹介致します。
対称vs非対称:フラワーデザインにおける西洋と日本の文化比較
フラワーアレンジメントと生け花に見る文化的違い
美に対する理解は文化によって大きく異なります(注1)。西洋の美術と日本の美学は、美に対するアプローチが顕著に異なる二つの文化の例です。
花に関して例を示すと、例えばフラワーアレンジメントと生け花は、西洋と日本における美の概念の違いを視覚的に示す興味深い事例となります。
フラワーアレンジメントの対称性
西洋における対称性の歴史的な背景
現代におけるフラワーデザインの対称性の考え方は、元をたどると古代ギリシャとローマの時代(紀元前8世紀頃~紀元後1世紀頃)にさかのぼります。
ギリシャの哲学では、対称性は宇宙の調和と秩序の象徴と考えられ、これが建築、彫刻、絵画において理想的な美の形とされました(注2)。
ルネサンス期(15世紀~17世紀頃)にはこの考えが再び強調され、自然界における完璧なバランスと対称性を模倣することが、美の究極の形とされました。
この伝統は、現代のフラワーアレンジメントにおいても引き継がれており、対称的なデザインとすることで、バランスと調和の追求がなされています。
上の画像は左右対称なヨーロッパの美的感覚に沿った室内。ヨーロッパでは対照的な配置が現代でも好まれています。
対称的なフラワーアレンジメントとフラワーショップ アリスの基本デザイン
対称的なフラワーアレンジメントは、視覚的なバランスと調和を生み出します。これは、見る人に安定感と平和をもたらし、秩序の中に美を見出す西洋の文化的価値観を反映しています。
この西洋的な文化も踏まえて左右対称に作ることをフラワーショップ アリスでは基本デザインとしています。
上の画像はフラワーショップ アリスで制作したフラワーアレンジメント。上記のように、左右対称を基本として制作しています。
日本の生け花における非対称性の美
生け花の哲学と技法
日本の美術における非対称性の美は、自然との一体感や季節の移り変わりへの敏感さから生まれました。
生け花にも大きな影響を与えた室町時代の茶の湯の文化では、自然物をそのままの形で楽しむことが美の理念とされ、この考え方が生け花にも反映されています。
自然界の不均一さや不完全さを受け入れ、それを通じて自然の真実を捉えることが、生け花における非対称性の核心です。
この哲学は現代においても生け花の基本とされ、自然の形を尊重しつつ、季節感や生命の移ろいを表現する手段となっています。
上の写真は小原流いけばなの作品事例。水盤に水を張り、左右非対称な中で、自然界のうつろいを表現しています。
非対称性を通じた自然への敬意
非対称性は、生け花において自然への深い敬意を示し、自然界の多様性と豊かさを称え、見る人に自然界との一体感を感じさせることを目的としています。
上の写真はタブロウの世界を表現した生け込み。
赤芽柳を額縁(tableau)に例え、その額縁の中で、赤バラが引き立つよう実物(みもの)を使いながら生け込んだ左右非対称な作例。
額縁の中で、自然の中の一風景を表現しています。
視覚的バランスと心理的影響
対称性は、視覚的なバランスを提供し、心理的な安定感と秩序をもたらします。これは、視覚芸術だけでなく、建築、デザイン、さらには自然界においても見られる普遍的な美の原則です。
対称的な形は、人間の脳に直感的に響き、安心感や美しさの感覚を引き出す傾向があります。
一方、非対称性は、予期せぬ驚きや興味を生み出すことで、視覚的な興味と心理的な刺激を提供します。
非対称の形や構成は、視覚的な緊張を生み出し、作品に動きやエネルギーを加えることができます。このアプローチは、見る側に深い思考や感情の反応を引き出すことがあります。
上の写真は左右非対称な生け込み。右上のリアトリスから吹き込んだ風が真ん中のドウダンツツジを通り、左下に抜けるイメージで枝を配置しました。
フラワーショップ アリスのフラワーデザイン:対称性と非対称性の融合
西洋と日本では、対称性と非対称性に対するアプローチが根本的に異なります。
しかし、どちらの文化においても、これらの概念は美の理解を深め、芸術作品を通じて人々に感動を与えるための手段として発展してきました。
フラワーショップ アリスでは、これら二つのアプローチを理解し尊重することで、花を用いた表現の可能性を広げています。
対称性の美しさを活かしつつ、非対称性の自由さとダイナミズムを組み合わせることで、より豊かで多様なアレンジメントや生け込みを創出し、お客様の様々なニーズに応えています。
初心者向けチュートリアル:西洋と日本のフラワーデザインを自宅で楽しむ
本記事では、フラワーデザインにおける対称性と非対称の歴史と考え方、そしてフラワーショップ アリスにおける取り組み等について述べてきました。
ここでは、西洋の対称的なフラワーデザインと日本の非対称的なフラワーデザインの基本を、自宅で簡単に試せるチュートリアルをご紹介します。
これらのステップを通じて、花を使った文化的表現の世界に、一歩踏み出してみませんか?
西洋スタイルのフラワーデザイン入門
- 材料選び: 均等な長さの花を3〜5種類選びます。対称性を意識して、色や形が調和するものを選ぶことがポイントです。
- 基本の形を作る: 中心になる花から配置していきます。対称性を保つために、両側に同じ長さ、同じ種類の花を配置します。
- バランスを取る: 背の高い花を中心に、外側に向かって徐々に短くなるように配置し、視覚的なバランスを整えます。
日本スタイルのフラワーデザイン入門
- 材料の選定: 自然の形を生かすために、様々な長さや形の枝や花を選びます。非対称性を表現するために、奇数の本数を選ぶと良いでしょう。
- 空間を意識する: 生け花は空間を大切にします。花や枝を配置する際には、空間を活かし、自然の流れを表現するよう心がけましょう。
- 形のバリエーション: 中心となる枝や花を配置したら、周りに異なる高さや方向の花を加えて、動きとリズムを作り出します。
実践のコツ
- 観察: 花材全体をよく観察し、その形やバランスを理解することが重要です。実際に生ける前に、植物の形をよく見てみましょう。
- 練習: 最初は完璧を目指さず、自分の感性を信じてみましょう。何度も試すことで、徐々に自分なりのスタイルが見えてきます。
このチュートリアルを通じて、西洋と日本のフラワーデザインの基本を楽しみながら学び、自宅で美しいアレンジメントを作る喜びを体験してください。
参考文献
(注1)美の認知
・この論文では、美を感じる脳のメカニズムについて述べています。美や芸術に対する認知の基準や過程を整理し、哲学から心理学、脳神経科学に至る美の認知研究の課題を論じています。
(注2)Asymmetry, Symmetry and Beauty
・この論文では、対称性と非対称性が自然と人間のプロセスに共存していること、そして対称性が芸術における重要な役割を果たしている一方で、非対称性もまた補完的な役割を果たしていることを強調しています。
この記事を書いた人
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こんにちは。フラワーショップ アリスの代表取締役、菊地 充智と申します。
福島県本宮市出身で、元々は教員として子どもたちの教育に尽力していました。その経験は私にとって大切な基礎となり、人と心を通わせる重要性や、強い絆を築くことの意味を深く理解させてくれました。
2007年、私は新たな挑戦としてフラワーショップ アリスに加わりました。それ以来、花々と共に日々成長し、お客様に最善のサービスを提供するために常に努力しています。
そして、花の美しさとそれぞれの物語をより深く理解し、お客様に届けるため、全国の花の産地を訪れています。
私の経営理念は、お客様に最高の満足を提供し、常に改善と修正を行いながら、お客様にとってベストの選択を追求することです。この理念は、私が書く文章にも反映されています。
皆さんが私の記事を通して、花の世界の美しさや、そこに込められた物語を感じ取っていただければ幸いです。それが私が記事を書く大きなモチベーションとなっています。どうぞよろしくお願いいたします。
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