一人前の花職人になるための修行期間

 今回は、「一人前の花職人になるためにはどのぐらいの修行期間が必要か?」と題して、持論を展開したいと思います。もちろん、私個人の経験からの意見ですので、異論もあると思います。ここでは、あくまでも個人的な意見として述べたいと思います。

 まず結論から申し上げますと、一人前の花職人となるためには最低10年は必要であると考えています。理由は以下3点。

そもそも花について学ぶ機会が少ない

 全く商品知識がない一般的な人を一人前の花職人として育てるためには最低10年は必要だと述べましたが、そもそも一般的な人は花について学ぶ機会がまずありません。

 小学校・中学校・高校・大学といずれを振り返ってみても、花に関しての知識を教える、所謂「花育」というものはほぼ皆無と言えます。ほぼ皆無というのは私が公立の小学校・中学校の担任を11年間やっていた経験から。少なくとも茨城県で花育は聞いたことがありません。せいぜいやるなら総合的な学習においてか?とも思いましたが、まずやってないでしょうね。

 そのため、入社時点で花に関して知っていることと言ったら「バラ」や「菊」程度。「バラ」と「トルコキキョウ」の見分けが付かない場合も多く、まずその商品知識を学ぶのに時間がかかります。

 花屋は一年を通して扱う花材が大きく変わるため、単に本で見たから、図鑑で見たからでは通用する訳でもなく、実際に手に取り、扱うことでその特性を知らなければなりません。

 以前、白の大菊について種類別の特性について述べました。薔薇もカーネーションもアルストロメリアもトルコキキョウもetc・・・と、品種を上げてみても種類ごとに特性が大きく違い、はたまた産地間での季節ごとの違い、生産者による違いも含めたら、それこそ膨大な経験と知識量が必要です。

 以上のことから正直、入社一年目では全く使いものになりません。花の種類と特性を実物と対比しながら知るだけでも最低2~3年はかかります。

花屋は技術職でもある

 単に商品を陳列するだけで売れるのであれば、技術習得をするのに3か月もかかりませんが、花屋は技術職です。お客様のご要望に応じて色合いや花材の組み合わせを考え、アレンジにするのか花束にするのか、仏用なのか祝用なのか等の多様な対応が求められます。もちろん、ラッピングやリボンの作り方にも技術が必要で、その習得にも時間がかかります。

 しかしその前に、入社時点で基本的なナイフの使い方が全くできない場合がほとんどです。ナイフで花の茎を切る、単にそれだけでも最初は全くできません。普段ナイフなんて使いませんから当然です。

 ではどのくらいの時間が必要か、概算で計算してみました。弊社は年間78日程が社員の休日となりますので、365日ー78日=年間出勤日が287日。1日8時間労働と考え、10年間実行すると22960時間です。

 もちろん、22960時間の中で全部が花に関しての技術を求められる仕事ではなく、配達時間もあれば葬儀場や結婚式場での納品・撤去の時間、お客様とのコミュニケーションの時間、掃除の時間等々に取られるため、花を作る技術単体の時間は大幅に割り引いて考える必要があります。しかしながら、納品・撤去の時間やお客様とのコミュニケーションの時間も広義の意味での花屋としての技術が求められる仕事と考えれば、概ねこのぐらいの時間は必要なのではないかと考えております。

体系的に教育をする花屋は基本的にありません

 全くの未経験者が一から基礎を学べるような時間的・経済的な余裕は、基本的に小規模の花屋ではまずないと考えてもらって結構だと思います。そのため実践から学ぶ必要がありますが、入社時点では商品知識が全くありませんので、配達などの技術を要しないものから順に行っていきます。

 花屋は学校ではありません。要は本人がどれだけ意欲的に、貪欲に学んでいこうかという気概が必要です。

 私個人は入社5年目あたりから自費で夜間、生け花の先生(小原流)の元へ毎週通い、技術習得の幅を広げました。幸い、師事した先生が生け花を教えて50年以上の大家の先生だったため、花の技術だけでなく、花の魅力そのものも十分に教わることができ、より花に関する技術向上の意欲が高まりました。

 生け花を学んで感じたことは、本の写真・ネットの写真とは全く違うこと。生け花では特に空間が大事なため、2Dの写真では表現に限界があり、本で単に読んだからでは技術習得が叶わないことです。

 これは受験勉強とは全く違っています。受験勉強では単に暗記すればいいだけですが、生け花では空間把握が要求されるため、本を読んだだけでは技術が身につきません。

大手が花業界に参入できないのは、技術習得に時間がかかりすぎるため

 これは私の持論ですが、恐らく大企業が花業界に参入できないのは、技術習得に時間がかかりすぎるためと、個々人の技術の差が大きすぎ、それを教育システムとして画一的に教える場がないことによると思います。

 先程の生け花においても、50年の大家の先生と私が全く同じ花材を生けても違ったものになります。全く同じ花材を使ってもです。ましてや一本一本の花材を見ても全て形状が違い、工業製品のように画一的なものはありません(花にも2LやLなどの規格はありますが、一本一本をよく見ると、葉の付き方、枝の太さ、色合い等全く同じものはありません)。そして花材の組み合わせ、色の組み合わせに関しても個々人の特性が出てきます。それらの花材を使って均一に、全て工業製品のように作ることはもちろんできません。

 しかしながら大企業が参入できないという点においては、我々小さな花屋が個々の個性を生かしながら花の提案ができるという意味でもあります。

 金太郎飴のようにどこの町でも全く同じ企業・同じコンビニ・同じスーパーでは、それはそれで便利である反面、街の特性が失われ、どこに行ってもつまらないものとなってしまいます。やはり個性を生かした中小企業や個人商店が生き生きと活躍できる方が望ましいのではないかとも考えています。

要は個人の学ぶ意識次第だが

 とどのつまり、技術習得には一定の時間が必要ですが、最終的には個人の学ぶ意識次第に尽きます。

 これはどの業界でも同じですよね。私が教員時代も「教える技術」を向上しようと毎年教育論文を書いていましたが、花屋でも同じ事で、現状を振り返っても全く満足していません。

 貪欲に勉強するスタイル、それは生涯尽きない課題に向かって歩んでいる今現在の姿勢でもあります。今日よりも明日、明日よりもその先に向かって、知識・技能を吸収していこうと個人的には考えています。

 そしてフラワーショップ アリスでは、そのような貪欲な知識欲を持つ人材を求めており、事実、一生懸命学ぼうと社員一同精一杯、前向きに取り組んでいます。