人はなぜ花を見ると癒やされるのか?~ストレス社会での花の癒やし効果~
花を見るとなぜ多くの人は心が安らいだり、癒やされるのでしょうか?
私自身も震災時の2011年3月中旬頃、福島原発が爆発して大パニックになった日の翌日、ふと一人で店舗の花を見た際に、とても落ち着き、癒やされた経験があります。
ここでは、アンデシュ・ハンセンの著書「スマホ脳」や鎌倉時代の供花の習慣などから花の癒やしの効果を類推し、現代における花の意義についても述べていきたいと思います。
人はなぜ花を見ると癒やされるのか?~ストレス社会での花の癒やし効果~
遺伝子の記憶としての花

アンデシュ・ハンセン「スマホ脳」
スエーデン在住のアンデッシュ・ハンセンの著書「スマホ脳」は日本でも翻訳が出ており、出版当時、非常に話題になりました。
アンデシュ・ハンセン「スマホ脳」によれば、人間の脳は原始時代の環境に適応しており、飢餓が恐ろしい脅威であること、そのために人間はカロリーを強く欲するよう進化してきたという記載が見られます。
地球上に現れてから99.9%の時間を、人間は狩猟と採取をして暮らしてきた。私たちの脳は、今でも当時の生活様式に最適化されている。脳はこの1万年変化していないーそれが現実なのだ。
(中略)
生き延びることを考えたとき、飢餓はとてつもなく恐ろしい脅威だった。だから人間はカロリーを強く欲するよう進化してきた。運良く高カロリーの珍しい果実を見つけたら、すかさず食べろー祖先はそんな衝動に突き動かされてきたのだ。
新潮社・新潮新書アンデシュ・ハンセン「スマホ脳」一部抜粋
ここからは私の推論となりますが、古代の人類にとって生存のためには「食料が豊富な場所」を見つけることが欠かせませんでした。花は肥沃な土壌の象徴であり、それを見つけることで「この場所には食料がある」と認識していたのではないでしょうか。
その記憶が遺伝子レベルで刻み込まれた結果、現代の私たちも花を見ると本能的に安心し、癒やしを感じるのかもしれません。


遺伝子の記憶とエピジェネティクス
近年の研究では、人間の遺伝子は環境や経験によって変化することが分かっています。これを「エピジェネティクス」と呼びます(参考:エピジェネティクスとは?)。
長い年月をかけて、人類は花がある場所を「安全な場所」や「食料が豊富な場所」として認識するようになり、それが遺伝的な記憶として受け継がれている可能性があります。そのため、現代においても花を見ると無意識に安心感や幸福感を覚えるのかもしれません。
鎌倉時代における供花の習慣
花が人間にとって「癒やし」の存在であることは、遺伝子の記憶だけでなく、歴史的にも裏付けられています。
古くから人々は大切な場面で花を手向けたり、供えたりすることで、心を落ち着け、祈りを捧げてきました。その一例が、鎌倉時代における供花の習慣です。
鎌倉時代に一般的に広がっていた仏教は発生当初から花と深い関係があり、経典にもその功徳が説かれています。花は仏の供養の第一とされ、葬儀や供養の場で重要な役割を果たしていました(参考:コトバンク – 供花)。


鎌倉時代の庶民が建立した石の板碑には、仏教の荘厳(宗教的な装飾や供養のための飾り)として花のモチーフが刻まれている例が見られます。このことからも、当時の人々が花を供養の象徴として大切にし、亡くなった人に対して花を手向ける文化が根付いていたことがうかがえます。
時代は進み、1600年代に建てられた徳川家康ゆかりの東照宮でも、花の文様が彫刻として残されています。これは、花が単なる装飾ではなく、供養や祈りの象徴として深い意味を持っていたことを示しています。


現代でも、葬儀で花を供える習慣は続いています。これは仏教の考え方が深く影響しており、故人の魂を慰め、祈りを捧げる象徴として花が大切にされているからです。
花の色彩が感情に与える影響
また、花が持つ癒やしの効果は、花そのものの形や存在感だけでなく、色彩による影響も大きいと考えられます。
花の色には、それぞれ特有の心理的な効果があり、人の感情や行動に影響を与えることが科学的にも証明されています。
- ピンクのイメージ:女性的な、柔らかい、甘い、かわいいなど
- 黄色のイメージ:明るい、派手、目立つなど
- 青のイメージ:さわやか、澄んだ、静かなど
- 赤のイメージ:熱い、派手、情熱的など
- 白のイメージ:純粋、清潔、きれい、軽いなど
(ただし同じ色相でも、明度や彩度、或いはトーンによって連想されるイメージが異なる場合もあります。)





このように、花の色は視覚的な印象を通じて私たちの感情や心理状態に影響を与えるため、花を見ることで心が癒やされるのは、遺伝子の記憶や文化だけでなく、色彩の効果も大きく関係しています。
デジタル社会における花の必要性
現代社会では、スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器が生活の中心となり、多くの人が長時間画面を見つめる生活を送っています。このような環境は、目の疲れや精神的なストレスを引き起こす原因となることが知られています。
しかし、自然に触れることがストレス軽減につながることも多くの研究で明らかになっています。特に、花を身近に置くことで、デジタル社会の中でもリラックス効果を得られると考えられています。


実際に、オフィスや医療機関では、花や観葉植物を設置することで、従業員や患者のストレスレベルが軽減し、集中力が向上するといった研究結果も発表されています(参考:花の観賞は心身のストレスを緩和する)。
花の持つ色彩は、視覚を通じてリラックス効果をもたらし、精神を安定させる効果が期待できます。デジタル機器の影響でストレスを感じやすい現代だからこそ、意識的に花を取り入れることが、心身のバランスを保つ一つの方法として有効ではないでしょうか。
現代の花
現代は産地・市場・花屋という流通の仕組みが確立され、多くの人が気軽に花を購入し、楽しむことができるようになっています。



花は単なる装飾品ではなく、贈り物や癒やしのアイテムとして広く活用されています。
また、花束やアレンジメント、そして母の日に代表される紫陽花などの鉢物は、誕生日や記念日などの特別な日の贈り物としてだけでなく、日常の生活の中でも取り入れられ、生活に彩りを与えています。


ストレス社会での花の癒やし効果
現代社会では、多くの人が仕事や人間関係、情報過多によるストレスにさらされています。特に都市部では、自然に触れる機会が少なく、日々の疲れが蓄積しやすい環境にあります。そんなストレス社会において、花が果たす役割は非常に大きいと考えます。


更に花は視覚だけでなく、嗅覚を通じてもリラックス効果をもたらします。例えば、百合の香りはストレス軽減に役立つとされています。
こういった百合の香りに代表される「花の香り」を取り入れることで、デジタル機器に囲まれた生活の中で、五感を使ったリフレッシュも可能となります。
まとめ
「花を見ると癒やされる」理由には、科学的な根拠だけでなく、古代から受け継がれた人間の本能が関係していると考えられます。遺伝子、歴史、色彩の力……どれも私たちの心に深く作用し、花をただの装飾品ではなく、心を癒やす存在にしているのです。


フラワーショップ アリスでは、花の色彩やデザインを考慮しながら、お客様が心から癒やされるような花を提供しています。
これからも、花の魅力をより多くの人に届け、日常の中で癒やしと彩りを感じていただけるよう努めていきたいと考えています。
是非とも部屋に、一輪でもいいので花を飾ってみませんか?
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この記事を書いた人

- 代表取締役社長・1級色彩コーディネーター
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こんにちは。フラワーショップ アリスの代表取締役、菊地 充智と申します。
福島県本宮市出身で、元々は教員として子どもたちの教育に尽力していました。その経験は私にとって大切な基礎となり、人と心を通わせる重要性や、強い絆を築くことの意味を深く理解させてくれました。
2007年、私は新たな挑戦としてフラワーショップ アリスに加わりました。それ以来、花々と共に日々成長し、お客様に最善のサービスを提供するために常に努力しています。
そして、花の美しさとそれぞれの物語をより深く理解し、お客様に届けるため、全国の花の産地を訪れています。
私の経営理念は、お客様に最高の満足を提供し、常に改善と修正を行いながら、お客様にとってベストの選択を追求することです。この理念は、私が書く文章にも反映されています。
皆さんが私の記事を通して、花の世界の美しさや、そこに込められた物語を感じ取っていただければ幸いです。それが私が記事を書く大きなモチベーションとなっています。どうぞよろしくお願いいたします。
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