花束の色数は少ない方が美しい?バークホフの美度から考えるフラワーデザイン
色彩検定1級のテキストにも登場する「バークホフの美度」ですが、説明が難解で理解しづらいと感じる方も多いのではないでしょうか?
本記事では、バークホフの美度をフラワーデザインに応用しながら、分かりやすく解説します。
花束の色数は少ない方が美しい?バークホフの美度から考えるフラワーデザイン
バークホフの美度とは?美しさを数値化する試み
「美しさ」は主観的なものであり、人によって感じ方が異なります。しかし、科学的・数学的に美を定量化しようとした試みの一つが、「バークホフの美度(Birkhoff’s Aesthetic Measure)」です。
この理論は、アメリカの数学者 ジョージ・バークホフ(George David Birkhoff) によって1933年に提唱されました。彼は、「美しさは数学的に測れる」という前提のもと、絵画、詩、音楽、建築、デザインなどの芸術作品に共通する「美しさの法則」を探りました。
そして、彼の研究の結果、美しさは「秩序(O)」と「複雑性(C)」の比率によって決まる という理論が生まれました。
美しさの数学的な定義
バークホフの美度(M)は、次のような数式で表されます。
- M(美度:Aesthetic Measure)
→ 美しさの数値的な尺度 - O(秩序:Order)
→ 規則性、対称性、統一感、バランスの良さ - C(複雑性:Complexity)
→ 形や構造の入り組み具合、要素の多さ
この数式はシンプルですが、「秩序が高く、複雑性が低いほど美しく見える」 という重要な示唆を与えています。
例えば、シンプルで整ったデザインのものは美しさを感じやすく、一方で要素が多すぎてごちゃごちゃしたものは、視覚的に混乱を招きやすいということです。
バークホフの美度と花のデザイン
バークホフの理論は、花のアレンジメントや花束のデザインにも応用できます。
色数が少ない方が美しく見える
花束をデザインする際に、色を増やしすぎると視覚的な混乱を招く ことがあります。
- 同系色でまとめた花束 は、統一感があり、美しく見えやすい(秩序 O が高い)。
- 多色使いの花束 は、視覚的にゴチャゴチャしやすく、美度が下がる(複雑性 C が高い)。


色数が少ない花束の魅力
左側の黄色の花束は、色相が統一されており、全体の調和が感じられるデザインです。同じ黄色系の花で構成されているため、視覚的な秩序(O)が高まり、統一感が強調されています。
さらに、黄色は明るさや元気さを象徴する色でもあり、特定のテーマやメッセージを伝えたい場合に効果的です。色数を絞ることで余計な複雑性(C)を抑え、シンプルながら洗練された印象を与えることができます。
多色の花束の魅力と課題
右側の多色の花束は、赤、ピンク、黄色など多様な色彩が使われており、豪華さや賑やかさを演出しています。一見するとカラフルで華やかですが、視覚的な情報量が多いため、秩序(O)が低く、複雑性(C)が高まる傾向があります。
また、多色の花束を美しく見せるには、色相のバランスやトーンの統一感を意識することが重要です。例えば、補色や対比の強すぎる配色を避けることで、視覚的なまとまりを保つことができます。

どちらを選ぶべき?
- シンプルで洗練された印象を与えたい場合:黄色の花束のように、色数を絞ったデザインが適しています。特に、フォーマルな場面や落ち着いた雰囲気を演出したい場合におすすめです。
- 豪華さやインパクトを重視したい場合:多色の花束は適しています。ただし、使用する色の組み合わせや配色の調整に注意しないと、まとまりを欠いた印象を与える可能性があります。
花の配置と対称性
- 花のアレンジを作る際に、対称性やバランスを意識すると、視覚的な秩序が生まれ、美しく見えます。
- ランダムな配置よりも、規則的な配置の方が美度が高くなる傾向があります。



左右対称のアレンジの特徴
左側の画像にある左右対称のアレンジは、視覚的なバランスが整っており、安定感や秩序を感じさせるデザインです。
- 対称性は人間の目に安心感を与え、美しさの基準の一つとされています。
- 結婚式や記念式典など、フォーマルな場に適したデザインであり、洗練された印象を与えます。
- 色の配置にも均等性が見られるため、全体のまとまりがあり、見る人に好感を与ます。
ランダムな配置の生け込みの特徴
右側の画像にある生け込みのようなランダムな配置は、自然の中に見られる無秩序さを表現したデザインです。
- ランダムな配置は一見カジュアルに見えますが、「計算された無秩序」である場合、独自の美しさを生み出します。
- 生け花や茶道の花として使用されることが多く、日本の伝統文化で重視される「間」や「余白」の美を感じさせます。
- ただし、ランダムな配置を美しく見せるには、色のバランスや高さの変化など、細かい計算が必要です。

ランダムな美しさを作る際のポイント
このようなランダムな生け込みのデザインでは、無秩序に見せつつも以下のような計算が必要です:
- 主軸を意識する:最も高い枝や花を配置し、全体の骨格を作る。
- 色相を合わせる:色相のグラデーションなど、まとまりを意識する。
- 動きを与える:高低差や向きを調整し、動きや変化を演出する。
- 余白を活かす:間を空けることで、息の詰まらない自然な配置を作る。
どちらを選ぶべきか?
- 左右対称のデザインは、秩序や安定感を求める場面に最適です。特に、フォーマルなイベントや贈り物として使われる花束では、対称性を活かしたデザインが好まれます。
- 一方で、ランダムな配置の生け込みは、自然の美しさやアート性を重視する場面に向いています。例えば、和室やアート展示など、個性的な空間演出に最適です。
まとめ
バークホフの美度の理論は、「秩序(O)を高め、複雑性(C)を抑えることで美しさが増す」 というシンプルな法則に基づいています。
これは、デザインだけでなく、花束やフラワーアレンジメントの美しさにも当てはまります。
Oを高める(美しさを増す)
秩序(O)が高いほど、調和の取れた美しいデザインになります。
✅ Oを高めるポイント
- 色数を少なくし、同一色相や類似色相を使う
- 明度を揃えて、まとまりのあるトーンにする
- 彩度のばらつきを抑えて、鮮やかな花だけor落ち着いた花だけで統一する
例:ピンク&赤の花束
ピンクと赤の色相は隣接しており、統一感があるため美度が高い。

Cを抑える(視覚的なごちゃつきを減らす)
複雑性(C)が高すぎると、美しさが損なわれる可能性があります。
❌ Cを抑えるポイント
- 色数を増やしすぎない(3色以内が理想的)
- 色相差・明度差・彩度差の全てを同時に大きくしない
例:4色の花束の場合

多色配色で構成する場合、色数をなるべく抑えながら、統一感を持たせることが重要です。
例えば左側の花束は大きく分けて黄色・オレンジ・水色・緑の4色構成となっています。
この場合、ラッピング用紙やリボンも花材の色と合わせ、極力全体として色数を抑える必要があります。
逆にラッピングを赤色に、リボンを紫色になどとしてしまうと、せっかくのきれいな花束が、色が多すぎることで台無しになってしまいます。
これは、複雑性(C)の高さによって視覚的なまとまりを失い、美度が下がってしまうためです。
バークホフの理論では、複雑性(C)を抑え、秩序(O)を高めることで、より美しい仕上がりになるとされています。
花束のデザインにおいても、この理論を意識することで、視覚的な美しさを最大化することができます。
このように、バークホフの美度を意識して花束やアレンジをデザインすることで、より美しく、洗練された仕上がりになります。
バークホフの美度を活かしたフラワーデザインに興味がある方は、ぜひ当店の花束やアレンジをご覧ください。
この記事を書いた人

- 代表取締役社長・1級色彩コーディネーター
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こんにちは。フラワーショップ アリスの代表取締役、菊地 充智と申します。
福島県本宮市出身で、元々は教員として子どもたちの教育に尽力していました。その経験は私にとって大切な基礎となり、人と心を通わせる重要性や、強い絆を築くことの意味を深く理解させてくれました。
2007年、私は新たな挑戦としてフラワーショップ アリスに加わりました。それ以来、花々と共に日々成長し、お客様に最善のサービスを提供するために常に努力しています。
そして、花の美しさとそれぞれの物語をより深く理解し、お客様に届けるため、全国の花の産地を訪れています。
私の経営理念は、お客様に最高の満足を提供し、常に改善と修正を行いながら、お客様にとってベストの選択を追求することです。この理念は、私が書く文章にも反映されています。
皆さんが私の記事を通して、花の世界の美しさや、そこに込められた物語を感じ取っていただければ幸いです。それが私が記事を書く大きなモチベーションとなっています。どうぞよろしくお願いいたします。
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