花と著作権は関係する?|花屋が解説 法律の基礎知識

 前回のブログ記事「花束は意匠権で守られる?花屋が解説:デザインと法律」では、花のアレンジと意匠権について述べました。

 例えばお客様から「スマホで見つけた画像と同じような花束を作ってほしい」といったご依頼をいただいたとします。
 このときに気になるのが、「これって著作権の侵害にならないのだろうか?」という点です。

 今回は、「花と著作権の関係」について、少し掘り下げて解説します。

花と著作権は関係する?|花屋が解説 法律の基礎知識

著作権とは?

 著作権とは、人の創作活動によって生まれた表現を守る法律上の権利のことです。小説や絵画、音楽、写真、映画、建築など、さまざまな分野で「独自の工夫や創作性が込められたもの」を保護対象としています。

 ポイントは、著作権が守るのはアイデアや題材そのものではなく、「表現された形」だという点です。

著作権とは

 例えばドラゴンボールのように「空を飛ぶ戦士が戦う」といった発想自体は誰でも自由に行えます。これは単なるアイデアに過ぎないからです。

 しかし、鳥山明氏が描いた『ドラゴンボール』に登場する悟空やベジータの具体的なキャラクターデザインやストーリー表現は、著作権でしっかり守られています。したがって、悟空をそっくり描いて利用することや、ストーリーをそのまま模倣することは著作権侵害となります。

 著作権があることで、作者は自分の作品を無断で複製されたり、勝手に改変されたりすることから守られます。

花束や花のアレンジは著作権の対象になるのか?

 結論から言えば、花束や花のアレンジそのものは、著作権で守られる対象とはならないのが実情です。著作権法が保護するのは「思想や感情を創作的に表現したもの」であり、そこには同一性が恒常的に保たれることが前提としてあります。

 ところが、花束やアレンジメントはどうでしょうか。使用する花材は自然物であり、時間とともにしおれたり枯れたりと形が変化していきます。つまり、完成した時点の造形美はあっても、絵画や彫刻のように「同じ姿を恒常的に保つ」ことが難しいのです。

花は自然物であり、時間とともに形が変化していきます
花は自然物であり、時間とともに形が変化していきます

 著作権法第20条で定められた「同一性保持権(注1)」の観点から見ても、同一の形を維持できない作品は著作物として扱いにくいと考えられます。

(注1)著作権法 第20条(同一性保持権)

第20条 著作者は、その意に反して、その著作物及びその題号を変更、切除その他の改変を受けない権利を有する。

2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
 一 法令の規定により又はその権限に基づき行う改変
 二 著作物の利用の目的上やむを得ないと認められる改変

 日本では、花束やアレンジメントが著作権の対象となるかどうかについて、これまで裁判で正面から争われた事例は存在しません。学説上は「芸術的要素は認められるが、同一性の観点から著作物性を認めるのは難しい」とされるのが一般的です。

 そのため、実務においては花束そのものではなく、それを撮影した写真図案化したデザイン画を著作物として保護するという考え方が主流となっています。

花そのものではなく、写真の構図などが著作権に該当します
花そのものではなく、写真の構図などが著作権に該当します

 一方、アメリカやEUではどうでしょうか。これらの地域でも、フラワーアレンジメントそのものを著作権の対象と認めた判例は、私が調べた中ではありません。

 ただし、写真や図面といった「固定化された形態」は保護対象となり、実際に写真の著作権をめぐる裁判例は多数存在します(注2)。さらにアメリカでは、料理の盛り付けやテーブルデコレーションと同様に、「一時的な美的表現」は著作物性を否定される傾向が強く、花束や生け花も同様の位置づけになると考えられます。

(注2)EUやアメリカでの写真の著作権をめぐる裁判例

(1)EUにおける写真著作権の基準
欧州司法裁判所(CJEU)の Painer 判決(C-145/10) では、ポートレート写真が「創作性ある写真作品」として著作権で保護されることが確認されています。
判例文(Curia公式)
解説記事(IPKat Blog)

(2)米国における写真を基にした二次創作の例
Andy Warhol Foundation v. Goldsmith 事件では、写真をもとにしたアート作品が著作権侵害にあたるかどうかが争われ、最高裁で大きな議論となりました。
判決文(U.S. Supreme Court)

(3)米国における再撮影と著作権
Bridgeman Art Library v. Corel Corp. 事件では、公有ドメインの絵画を忠実に撮影しただけでは新たな著作権は発生しないとされました。
解説(Wikipedia)

(4)米国における写真とフェアユースの争点
Cariou v. Prince 事件では、写真を利用したアプロプリエーション・アートがフェアユースにあたるかどうかが争われました。
解説(Wikipedia)

※これらの判例はいずれも写真の著作権や二次創作に関するものであり、被写体である花そのものの著作物性を扱ったものではありません。「写真の保護は強い」ことを示す参考事例となります。

写真に写っている花のアレンジを真似する場合

 ここで重要なのは、「写真そのもの」と「写真に写っている被写体(花のアレンジ)」を区別することです。

 まず、写真自体は著作権法で守られる「著作物」です。撮影者がどの角度で撮るか、どの光を使うか、どの瞬間を切り取るかといった創作性が反映されているからです。そのため、写真をコピーしたり、画像をそのまま取り込んで利用したりする行為は、著作権法で定める「複製権」や「翻案権(注3)」の侵害に当たる可能性があります。

(注3)翻案権とは?

翻案権(ほんあんけん) とは、著作者が持つ権利のひとつで、自分の著作物をもとに、新しい表現形式に作り替えることをコントロールできる権利をいいます。著作権法第27条に規定されています。

(著作権法第27条)
著作者は、その著作物を原著作物とする二次的著作物を創作する権利を専有する。

 しかし、写真に写っている花のアレンジメントそのものは著作物とはみなされません。花材は自然物であり、同一性を保つことが難しく、著作権法で保護される「固定された表現」とは考えにくいからです。したがって、他人が撮影した花束やアレンジの写真を見て、それを参考に似たようなデザインで花束を自ら制作しても、著作権法上の侵害にあたる可能性は低いと考えられます。

写真と実物の花における著作権の観点からの違い
写真と実物の花における著作権の観点からの違い

 要するに、侵害になるのは「写真という作品をコピーした場合」であり、被写体である「花束やアレンジメントそのものを真似て作る」ことは、著作権的には問題がないという整理になります。

山の雑誌の風景写真を見て、そっくりに描く行為は?

 では、雑誌に掲載された風景写真を見て、そっくり同じように絵を描いた場合はどうでしょうか。これは、写真の持つ構図・光の表現・切り取り方といった「表現形式」を再現しているため、著作権法第21条で定める「複製権(注4)」の侵害にあたる可能性があります。

山や湖といった自然そのものには著作権は存在しません
山や湖といった自然そのものには著作権は存在しません

 重要なのは、山や湖といった自然そのものには著作権は存在しないということです。誰が見ても同じ山を描くのは自由です。しかし、写真家が独自に切り取った「表現された景色」を真似ることは、著作物の複製や翻案と評価されるのです。

(注4)著作権法(昭和45年法律第48号)第21条(複製権)

著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

まとめ

 結論として、花束やアレンジメントそのものは一般的に著作権の対象とは考えられていないため、写真を参考にして似たデザインを制作しても著作権上問題となる可能性は低いとされています。
 ただし、写真自体には著作権があるため、画像をコピーしたり加工して利用することは避ける必要があります。

花は一期一会。その瞬間を楽しんでみてください
花は一期一会。その瞬間を楽しんでみてください

 実際にお客様が花屋に依頼するときは、参考写真を見せながら「この雰囲気で」「この色合いを取り入れて」といった希望を伝えても大丈夫です。
 花は自然物であるため、写真とまったく同じ再現は不可能ですが、その時々に出回る花材を使って近い雰囲気を表現することは可能です。

 むしろ、同じ参考写真を見せても仕入れ状況や季節によって異なる美しさが生まれるのが花の魅力です。写真とそっくりでなくても、「その瞬間にしか出会えない特別な花束やアレンジ」を楽しんでいただければと思います。

(免責事項)
※本記事は花屋としての実務経験に基づき、著作権と花の関係を一般的に解説したものです。法律上の最終的な判断を示すものではありません。具体的な案件については、専門の法律家にご相談ください。

この記事を書いた人

菊地充智
菊地充智代表取締役社長/色彩講師/UC級講師/1級色彩コーディネーター
こんにちは。福島県郡山市にあるフラワーショップ アリスの代表を務めております、菊地充智です。
元教員としての経験を活かしながら、色彩の専門知識を基に、お客様一人ひとりに寄り添った花づくりを行っています。

全国の産地を自ら訪問し、生産者の声を直接伺いながら、確かな品質と生産者の想いやこだわりが詰まった花を選んでご提供しています。

また、色彩講師(AFT認定)/UC級講師(AFT認定)/1級色彩コーディネーターとして、色彩の理論に基づいた花束・アレンジメントのご提案や、色彩と花に関する情報発信にも力を入れています。

ブログ記事では、花の魅力や色彩などに関する知識を、できるだけ分かりやすくお届けしています。
ご覧いただいた皆様が、花や色彩の奥深さに興味を持つきっかけになれば嬉しく思います。

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