花束は意匠権で守られる?花屋が解説:デザインと法律
たまにお客様から「スマホで見つけた画像と同じような花束を作ってほしい」といったご依頼をいただきます。
このときに気になるのが、「これって意匠権の侵害にならないのだろうか?」という点です。
今回は、花と意匠権の関係について少し掘り下げて解説します。
花束は意匠権で守られる?花屋が解説:デザインと法律
意匠とは?
「意匠」とは、物の形状・模様・色彩など、目で見て美しいと感じるデザインのことを指します。
意匠を保護する権利が意匠権であり、デザインを創作した人が独占的にそのデザインを利用できる制度です。
特許情報プラットフォーム「JーPlatPat」は独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が運営している公的なデータベースで、特許・実用新案・意匠・商標に関する情報を誰でも無料で検索できるシステムです。

意匠権に関しても、過去にどのようなデザインが登録されているのかを確認することができます。例えば「張り子」と検索すれば、実際に登録されている意匠の一覧が出てきますし、「花瓶」「フラワーアレンジメント」といったキーワードで調べれば、花に関連する意匠がどのように保護されているかを知ることができます。
ちなみに「フラワーアレンジメント」で検索すると、フラワーアレンジに関連した「水引」などの意匠が出てきます。
このような情報を確認することで、自分の考えているデザインが新規性を持っているのか、あるいは既に登録済みなのかを事前にチェックできる点は非常に有用です。
意匠権における「工業上利用可能性」とは?
意匠法第3条において、意匠登録を受けるためには「工業上利用できる意匠」であることが要件とされています。ここで言う「工業上利用可能」とは、機械やロボットによる完全自動生産である必要はなく、同一のデザインを反復継続して生産できることを意味します。
つまり、工場での機械大量生産は典型例ですが、手工業であっても同じデザインを繰り返し作れるのであれば、工業上利用可能性を満たすと解釈されます。
意匠法 第3条(意匠登録を受けることができる意匠)
第1項
工業上利用することができる意匠であって、次に掲げるものを除く意匠は、意匠登録を受けることができる。
一 公然知られた意匠
二 刊行物に記載され、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠
三 これらに類似する意匠第2項
意匠登録出願に係る意匠が、出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠であっても、その出願人が当該意匠を創作した者であるときは、一定の期間内であれば意匠登録を受けることができる(新規性喪失の例外規定)。第3項
意匠登録出願に係る意匠が、その出願に係る物品又は建築物の用途に照らして需要者が容易に創作することができたと認められる意匠は、意匠登録を受けることができない。
意匠権登録には費用がかかる
もっとも意匠権は「登録すれば自動的に永久に保護される」ものではありません。登録のためには、特許庁に対して出願料や登録料を納める必要があります。
まず、出願時に必要となるのが出願手数料(13000円~16000円)です。その後、審査を経て登録が認められると、意匠登録料を支払うことで権利が発生します。意匠の存続期間は出願日から25年間と定められており、その間、登録料を納め続けることで権利が維持されます。

この登録料は一度に25年分を支払うことも可能ですが、意匠は流行に左右されやすいため、通常は年ごとに分割して納付し、権利不要の際には支払わないことも可能です。また、1年目から3年目までは年間8,500円、その後は年間16,900円(2025年現在の金額)と金額も決まっています。
弁理士を通して出願すると、弁理士費用として数万円から十数万円程度 の報酬も必要になります。
つまり、長期にわたって権利を維持しようとすると、トータルで数十万円の費用がかかることになります。
したがって、意匠登録は「本当に保護したいデザイン」に絞って行うのが一般的です。単発の作品や一品ものの芸術作品には向きませんが、ブランドの顔となるようなデザインや長期的に利用される商品デザインであれば、費用をかけてでも登録する意義があります。
花束や花のアレンジが対象外な理由
花束や生け込みは、自然物を素材として用いるため、全く同じデザインを量産することが困難です。
花一輪ごとに大きさや形が異なるため、設計通りに再現しても「完全に同一」にはなりません。
そのため、花束や花のアレンジそのものは、一般的には意匠権の保護対象とみなされにくいと考えられます。
- 花束や花のアレンジは意匠登録を受けることができないとことですが、天然物を利用した、斬新なカットデザインのダイヤの指輪は意匠登録を受けることができますか?
-
素材がダイヤなどの天然物であっても、それらに加工を加えることで同一物が量産できれば、意匠登録を受けることができます。そこが花束や花のアレンジとの違いです。
手工業品はどう扱われる?
一方で、陶器や家具、和紙を使ったランプシェードなどの工芸品は、たとえ手作業であっても、型や設計をもとに同じデザインを何度も再現できるため、意匠権の対象となります。
例としては、陶磁器の骨壺や漆器の椀、家具の形状などが挙げられます。
逆に、完全に一品ものとして二度と再現できない芸術作品は「工業上利用可能性」を欠くため、意匠権では守られません。

張り子の特徴
ここで一つ、花と比べやすい伝統工芸「張り子」を見てみましょう。
張り子は和紙を型に貼り重ねて作るもので、犬張子など独特の形状を持っています。製作は手作業ですが、型を使うことで同じ形を何度も再現できるのが特徴です。
張り子は意匠権で守られる?
張り子は「同じ型から繰り返し作れる」という点で、工業上利用可能性を満たします。
そのため、外観の形状や模様・配色などは意匠登録の対象になり得ます。
下の画面はJ-PlatPatで「張り子」を検索した画面ですが、実際に朱鷺(トキ)をモチーフにした張り子も登録されています。

注意点:新規性が必須
ただし、伝統的に広く知られている「犬張子」などは新規性がないため意匠登録できません。
しかし、現代的なアレンジを加えた新しい張り子キャラクターや、独自の模様を施したものは意匠権で守ることが可能です。
また、伝統工芸の分野では、意匠権と地域団体商標を組み合わせてブランドを保護するケースも多く見られます。
まとめ:花は一品ものの芸術
- 花束は自然物を素材として用いるため、意匠法上の「工業上利用可能性」を満たさず、意匠権で守られることはないとされています。
- しかし、工芸品のように型や設計を用いて反復生産できるものは意匠権の対象となります。
- 張り子は手工芸ながら「型」によって同じ形を再現できるため、意匠権で守れます。
- ただし、伝統的な形ではなく、新規性のあるデザインであることが条件です。

花に関しては意匠権が存在しないため、ネットで見た写真と「似た感じで作る」ことは問題ないと考えられます。
とはいえ、「全く同じ花材」「全く同じ色合い」「全く同じ形」というものは自然物である以上、再現不可能です。あくまでも雰囲気を近づけることが限界となります。
花は一つひとつが唯一無二の芸術作品です。その季節に出回る花材や色の組み合わせを活かし、その時々にしか出会えない美しさを楽しんでいただければ幸いです。
(免責事項)
※本記事は花屋としての実務経験に基づき、意匠権とフラワーデザインの関係を一般的に解説したものです。法律上の最終的な判断を示すものではありません。具体的な案件については、専門の法律家にご相談ください。
この記事を書いた人

- 代表取締役社長/色彩講師/UC級講師/1級色彩コーディネーター
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こんにちは。福島県郡山市にあるフラワーショップ アリスの代表を務めております、菊地充智です。
元教員としての経験を活かしながら、色彩の専門知識を基に、お客様一人ひとりに寄り添った花づくりを行っています。
全国の産地を自ら訪問し、生産者の声を直接伺いながら、確かな品質と生産者の想いやこだわりが詰まった花を選んでご提供しています。
また、色彩講師(AFT認定)/UC級講師(AFT認定)/1級色彩コーディネーターとして、色彩の理論に基づいた花束・アレンジメントのご提案や、色彩と花に関する情報発信にも力を入れています。
ブログ記事では、花の魅力や色彩などに関する知識を、できるだけ分かりやすくお届けしています。
ご覧いただいた皆様が、花や色彩の奥深さに興味を持つきっかけになれば嬉しく思います。
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