花屋で買った花は増やしていい?~種苗法から見た「自家増殖できる花・できない花」の考え方~

 花屋で買った花を、「挿し木すれば増やせるのでは?」と思ったことはありませんか?
 実は、花屋で流通している花の多くは、種苗法に基づく品種登録の仕組み(育成者権)によって守られた品種です。

 本記事では、花屋の現場経験をもとに、自家増殖できる花・できない花の違いを、種苗法の考え方から分かりやすく解説します。

花屋で買った花は増やしていい?~種苗法から見た「自家増殖できる花・できない花」の考え方~

種苗法とは?

 筆者が以前、産地訪問で行った沖縄県には、既存の品種をかけ合わせて新しい品種づくりを行っている研究所があります。
 そこは写真撮影不可の場所でしたので撮影はしておりませんが、様々な品種の中から、生産者が育てやすく、且つ丈夫で、色彩や形状が「売れる」品種作りと選別改良を行っていました。

 このように、長い年月をかけて新しい品種を生み出す育種家を守るのが種苗法となります。

種苗法による制限

 この種苗法には、

  • 国に品種登録された植物について一定期間(花きの場合は原則25年)育種家に育成者権を与える

という制度を設けています。

 この育成者権が及ぶ範囲で特に重要なのが、「増殖行為が問題になりやすい」という点です。

 例えば、

  • 挿し木
  • 接ぎ木
  • 株分け
  • 種を採って育てる

といった行為は、登録品種であれば「増殖(種苗の生産)」にあたり得ます。
 特に、増やした苗や球根を譲ったり売ったりする場合は、育成者権の問題が生じやすく、許諾が必要になることがあります(注1)

 この点は、「家庭で楽しむだけなら問題ない」と考えられがちな著作権とは、考え方が大きく異なる部分です。

 つまり種苗法は、

植物の新品種を「作る努力」を守るために、増やす行為そのものをコントロールする法律

と理解すると、非常に分かりやすいと思います。

(注1)農林水産省「種苗法に関する一般的なご質問(Q&A)」参照

花屋で流通している花の多くは登録品種

 現在、花屋で販売されている切り花や鉢花の多くは、育種家によって開発された品種登録済みの植物をもとに生産されています。

 例えば下のような八重の百合(これは山形県の池野さんが生産したもの)は、オランダで品種が開発(育種・品種登録)され、その球根を南米やニュージーランドなどでオランダの会社が増殖・生産します。


 その後、輸入業者を通じて球根が日本国内の生産者に渡り、国内の各産地で育てられます。育てられた百合は市場を経て花屋に並び、最終的に一般の消費者のもとへ届きます。

 つまり、

花屋で流通している花は、基本的に「品種登録されているものが多い」

と考えておいた方が、法律的にも、実務的にも安全です。

 この点を理解しておくことで、次に説明する「花屋で買った花を増やしていいのか?」という疑問も、より正確に判断できるようになります。

花屋で購入した切り花・鉢花を増やすことはできるのか

 結論から言うと、花屋で購入した切り花や鉢花を「増やす」行為は、登録品種の場合、育成者権の問題が生じ得るため注意が必要です。
 とくに、増やした苗や球根などを譲ったり売ったりする場合は、許諾が必要になることがあります。

 その理由は、前の項目で説明したとおり、花屋で流通している花の多くが、種苗法に基づき品種登録された植物だからです。

 そのため、一般的には、

花屋で購入した花は、基本的に「増やさない」と考えておく

という理解が、法律的にも、実務的にも、最も安全な考え方と言えると考えます。

自然に生えているススキなどはなぜ問題ないのか

 ススキのように、野原や河原などに自然に生えている植物を増やして育てる行為は、種苗法の観点から見ると、まったく問題になりません。

 理由は、在野のススキなどは種苗法で登録されていないためです。

 そのため、

  • 庭に生えてきたススキを株分けする
  • 河原で見かけたススキを挿して増やす
  • 種が落ちて自然に増えたものを育てる

といった行為は、自家用に楽しむ範囲であれば、法的な問題はありません。

花屋として伝えたい基本的な考え方

 現在、花屋で流通している切り花や鉢花の多くは、育種家によって長い年月をかけて開発された品種であり、品種登録制度のもとで流通しています。

 こうした花を、知らずに・悪気なく・家庭で楽しむつもりで増やしてしまった場合でも、育種家の権利や生産者の努力を損なう結果になりかねません。

 そのため、花屋としては、

「花屋で購入した花を増やす場合は、登録品種の可能性を前提に注意してほしい」

という考え方をおすすめします。
(※登録期間が満了した品種や非登録品種も、花屋が販売している花材の中には存在します。しかし、一般の方がそれらを登録品種と見分けることは非常に困難です。)

一方で、

  • 自然に生えている野生の草花
  • 在来種
  • 古くから存在する植物

については、品種登録や育成者権とは無縁であり、庭などで増やして楽しむことに問題はありません。

 このように、

  • 花屋で流通している花
  • 自然に自生している植物

きちんと分けて考えることが、種苗法を正しく理解する第一歩になります。

 育種家が品種を開発し、生産者が大切に育て、市場を通じて花屋に届き、お客様のもとへ渡る。
 この流れがあるからこそ、私たちは日々、さまざまな美しい花を楽しむことができます。

 花屋としては、その背景も含めて花を楽しんでいただけたら、とても嬉しく思います。

まとめ:自家増殖できるかどうかのシンプルな線引き

 ここまでお読みいただいた方であれば、花の自家増殖についての基本的な線引きは、もう見えてきていると思います。

 まず、花屋で流通している切り花や鉢花の多くは、育種家によって品種登録された植物です。
 これらは育種家の権利(育成者権)によって守られているため、「増やす」場合は注意が必要です。特に、増やした苗や球根を譲ったり売ったりする場合は、許諾が必要になることがあります

 下の写真は以前訪問した長野県のスカイブルー・セトさんが育種したリンドウですが、中央アジアに赴いて入手したリンドウと、蝦夷リンドウとを交配させて作ったものだそうです。

スカイブルー・セトさんが蝦夷リンドウと交配させて作った黄色の色味がかかっている新品種
スカイブルー・セトさんが蝦夷リンドウと交配させて作った黄色の色味がかかっている新品種

 このように、種苗法は、花を楽しむことを制限するための法律ではなく、新しい品種を生み出す育種家の努力を守るための仕組みです。

 花を手に取るとき、その背景にある育種・生産・流通の流れを少し意識していただければ、より安心して、そして気持ちよく花を楽しんでいただけるはずです。

(免責事項)
※本記事は花屋としての実務経験に基づき、種苗法と花の関係を一般的に解説したものです。法律上の最終的な判断を示すものではありません。具体的な案件については、専門の法律家にご相談ください。

※また、本記事では、一般の方向けに「登録品種の可能性が高い花は、増やす前に注意する」という実務的な観点で整理しています。個別の適否は品種や状況によって異なります。

この記事を書いた人

菊地充智
菊地充智代表取締役社長/色彩講師/UC級講師/1級色彩コーディネーター
こんにちは。福島県郡山市にあるフラワーショップ アリスの代表を務めております、菊地充智です。
元教員としての経験を活かしながら、色彩の専門知識を基に、お客様一人ひとりに寄り添った花づくりを行っています。

全国の産地を自ら訪問し、生産者の声を直接伺いながら、確かな品質と生産者の想いやこだわりが詰まった花を選んでご提供しています。

また、色彩講師(AFT認定)/UC級講師(AFT認定)/1級色彩コーディネーターとして、色彩の理論に基づいた花束・アレンジメントのご提案や、色彩と花に関する情報発信にも力を入れています。

ブログ記事では、花の魅力や色彩などに関する知識を、できるだけ分かりやすくお届けしています。
ご覧いただいた皆様が、花や色彩の奥深さに興味を持つきっかけになれば嬉しく思います。

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