「紫でお願いします」が意外と難しい理由 ― 花屋が考える紫の幅
「紫」と一言で言っても、その色相の幅は意外と広いものです。
花屋(フラワーショップ アリス)の現場でも、「紫」として扱われる花は、赤紫から青紫までさまざま。
今回は、花屋が実際にどのような感覚で「紫」を捉えているのか、その幅広さについてお伝えしていきます。

「紫でお願いします」が意外と難しい理由 ― 花屋が考える紫の幅
「紫」と一言で言っても幅が広い
幼少の頃、信号機の色が本当は緑色なのに、大人が青と呼んでいることに違和感を感じたことはないでしょうか。
これは「青」という色彩語の持つ、概念的な幅の広さに起因しますが、幼少の頃はそういった事情は考えずに、「緑なのに青と言うのは間違ってる!」などと反応したりします。

同じように、「紫」も概念的な幅の広さを持つ色彩語となります。
つまり、人によって、またお客様と花屋の間でも、「紫」の認識が違う場合があるというのが、長年花業界に携わってきた筆者の感想です。
花屋では「紫」を広めに捉えている
花屋の現場では、「紫」はかなり広めに捉えられている色です。というのも、実際の花材では、いわゆる純粋な紫と感じられるものはそれほど多くなく、赤紫や青紫までを含めて「紫系」として扱う場面が多いためです。
下の図はPCCSの色相環となります。PCCSでは色相を1番から24番までの数字に割り振っています。
色相環を見ると22番が「紫」となりますが、「紫」或いは「紫系」と花屋が言う場合、色相番号20番(青紫)~24番(赤紫)までの範囲を含めていることが多いです。

つまり、花屋における「紫」とは、単一の色を指すというよりも、ある程度の幅を持った色のまとまりとしてとらえています。
では花材の実例を通して、「紫」としてひとくくりにされがちな「赤紫」「紫」「青紫」について述べていきます。
実例①「赤紫」
下の薔薇「ライラッククラシック」は一見、紫のように見えますが、実は赤紫。
もちろん花屋では、「紫系」の範疇に入る色相です。

画像から色を抽出し、カラーカルクという専用ソフトで分析したのが図2となります。
これを見ると、ソフトトーンとダルトーンの24番が多く見られ、全体的に赤紫であることが分かります。

このように、一般には「紫の花」と見られやすいものでも、実際に分析してみると、より正確には赤紫に位置づけられる場合があります。
花屋が「紫」と言うときには、このような赤紫寄りの花材も含めて捉えていることが少なくありません。
実例②「紫(中明度・中彩度)」
続いていわゆる「紫色」の、スプレーバラ「スターリングセンセーション」。
先述のように、PCCS22番の「紫」の色相にピッタリと合致する色合いの花材はあまり多くありません。

画像から色を抽出すると、ダルトーンの23番やペールトーンの22番が中心。赤紫の24番が見られないため、全体としては「紫色」と言っても差し支えないと考えます。

実例③「紫(高明度・高彩度)」
こちらは明るめの紫、トルコキキョウ「セレブライラック」。
上のスプレーバラ「セレブライラック」に比べて明度が高く、彩度は強くなっています。

分析(図4)すると、ブライトトーンの22番が中心。
これぞ紫と言うような存在感です。

実例④「紫(混色)」
このスカビオサはやや赤みを感じるものの、花屋の現場では十分に「紫系」として選択できる花材です。

画像から色を抽出すると、グレイッシュやペール、ソフトトーンの22番が中心。中央はBKつまり黒色の部分もありますが、全体的に「紫の花材」と認識していいかと考えます。

実例⑤「青紫(中明度・高彩度)」
これは青紫色のアスター「マッシュブルー」。花屋では、こういった青紫色も紫系として取り扱うことが多いです。
純粋な紫の花材が少ない一方で、青紫の花材は比較的多い傾向にあります。

画像を分析(図6)すると、色相番号21番の「青みの紫」のみでの構成。トーンはビビッド~ブライトトーンが中心となっています。
しかしながら前述のように、この色は「紫系」として扱うことが非常に多いです。

実例⑥「青紫(高明度・高彩度)」
これも明るい青紫ですが、「紫系」の花材として取り扱っています。
純粋な紫ではないものの、紫系の花束やアレンジの中では違和感なく調和する色です。

色相は21番の青みの紫。ライトトーンやブライトトーンが中心の花材となっています。

紫の範囲外の実例①
では次に、「紫」或いは「紫系」とまでは言えない色相・トーンの花材を、実例を交えて紹介していきます。
このラナンキュラス「ティーバ」は赤みが強く、紫系としては範囲外と考えています。
幾分ピンクも混じっており、「紫系」としてはやや苦しい色相です。

カラーカルクで分析すると、ブライトトーンの24番や、紫みの赤(1番)のストロングトーンも混じっています。
同じ色相番号の24番でも、ブライトトーンやライトトーン、ペールトーンの24番は「ピンク」と呼ばれる色合い。さすがに紫とは違います。

紫の範囲外の実例②
当然ながら、このような「青」の薔薇「アイスライトブルー」は、紫系としては扱いません。

画像を分析すると、18番の青や19番の紫みの青で構成されています。トーンはブライトトーンが中心であり、明るいトーンです。
これを「紫系」とするには、少し無理があります。

紫系の花束の一例
例えばお客様から「紫系で作ってほしい」と頼まれた場合の一例が、下の写真です。
これはトルコキキョウと紫陽花、そしてブルーのデルフィニウムも入れてお作りしました。

画像から色相を分析すると、ディープやダークトーンの青紫も含め、全体として「紫系」で構成されているのが分かります。
また、色相の違う19番の青のデルフィニウムは、ポイントに入れる「差し色」と考えて頂ければと思います。

まとめ
このように「紫」と一言で言っても、花屋の現場では必ずしもPCCSの22番だけを指しているわけではありません。
実際には、赤紫から紫、青紫までを含めた、ある程度幅のある色のまとまりとして捉えていることが多いです。
今回の記事のポイントを整理すると、次のようになります。
- 花屋が「紫系」と言う場合、PCCS22番の紫だけではなく、20番の青紫から24番の赤紫までを含めて考えることが多い。
- 同じ「紫系」の花でも、赤紫寄りなのか、紫そのものに近いのか、青紫寄りなのかによって印象はかなり異なる。
- トーンの違いによっても、落ち着いた紫、明るい紫、鮮やかな紫など、見え方は大きく変わる。
- 逆に、赤みが強すぎてピンクに近いものや、青みが強くて青として認識されるものは、「紫系」の範囲外になる場合もある。

このように、花の世界における「紫」は、単一の色ではなく、幅を持った色として理解した方が実態に近いと言えるでしょう。
特に、純粋な意味での「紫」にぴったり合う花材はそれほど多くありません。そのため、花屋の現場では、ある程度幅を持たせて「紫系」として花材を選んでいるのが実情です。
つまり、「紫でお願いします」というご要望に対しては、花屋としてもできるだけそのイメージに近づけるように努めますが、実際には赤紫や青紫を含めた中で表現する場合が少なくありません。
その点は、花という素材の性質として、ある程度ご理解頂ければと思います。
(注)本記事に掲載している色相環および色彩分析表は、日本色研事業㈱ 色彩集計ソフト「カラーカルク」を使用して作成した分析画像の一部です。カラーカルクを使用し、データを公開するにあたっては、日本色研事業株式会社様に正式に許諾を得ております。
この記事を書いた人

- 代表取締役社長/色彩講師/UC級講師/1級色彩コーディネーター
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こんにちは。福島県郡山市にあるフラワーショップ アリスの代表を務めております、菊地充智です。
元教員としての経験を活かしながら、色彩の専門知識を基に、お客様一人ひとりに寄り添った花づくりを行っています。
全国の産地を自ら訪問し、生産者の声を直接伺いながら、確かな品質と生産者の想いやこだわりが詰まった花を選んでご提供しています。
また、色彩講師(AFT認定)/UC級講師(AFT認定)/1級色彩コーディネーターとして、色彩の理論に基づいた花束・アレンジメントのご提案や、色彩と花に関する情報発信にも力を入れています。
ブログ記事では、花の魅力や色彩などに関する知識を、できるだけ分かりやすくお届けしています。
ご覧いただいた皆様が、花や色彩の奥深さに興味を持つきっかけになれば嬉しく思います。
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紫をテーマにしたご投稿、大変興味深く拝読いたしました。ありがとうございました。
実際の花の色を色相・明度・彩度と分析されており、イメージしやすかったです。
お客様が持つ「紫」の色相や配色イメージの希望に合わせて、季節の花材やラッピングを組み合わせ、全体として「紫」の作品を作り上げていくのですね。
友人は、古希のお祝いに紫のブーケを注文(イメージは色相21か22で、明るいブーケ)したところ、
実際は色相は、19と20が使われ、少し暗い色のブーケにとなり、イメージの相違がありました。
購入する側からすると、実際には色相の20から22の紫の違いを見分けるのは難しく、24の赤紫はピンクとして認識されることも多いのでしょうか。
また、季節ごとの花材についての知識がないと、口頭だけでイメージを共有するのは難しいのではないかとも感じました。
紫は『色彩の博物事典』にも記載されているように、人間にとって特別な魅力や憧れを感じさせる色。またトーンによって印象が大きく変わるため、幅広い年代の女性に人気がある色と思われます。
今回のテーマの紫のもつ幅について、大変面白く感じました。
次回のご投稿を楽しみにしています。
コメントありがとうございます。
お客様と作り手である花屋のそれぞれでPCCS等の知識があれば、比較的色合いについて相互に伝わり合えるとは思いますが、現実にはなかなか難しいですね。
現実問題として、入荷する花として純粋な紫色(PCCSで言うところの22番前後)が非常に少なく、また入荷する季節も非常に限定的です。
先日も山形県産のきれいな紫色のラベンダーが入荷したのですが、出荷が2週間ほどで終わってしまいました。
このように入荷する花材の色合いに純粋な紫色が少ないという前提で、PCCSで言うところの20番~24番ぐらいまでを紫と捉えて使用するという話を、お客様に対して分かりやすい言葉で説明する責任が、花屋側にもあると感じております。
コメントにあった、他店で制作されたご友人様のブーケの色合いの相違も、その最たる例だと思います。
非常に私も気づかされたコメントでした。とても参考になりました。コメントありがとうございました。