目立つ花束にしたい!誘目性・視認性から考える配色とサイズ感

 目立つ花束を贈りたい――その想いを形にするには、「色」と「大きさ」の工夫が欠かせません。
 本記事では、「誘目性」と「視認性」という観点から、人の目を引きつける花束の色とサイズ感をご提案します。

目立つ花束にしたい!誘目性・視認性から考える配色とサイズ感

誘目性とは

 皆さん、「誘目性(ゆうもくせい)」や「視認性(しにんせい)」という言葉は聞いたことがあるでしょうか?
 ちょっと難しい言葉に聞こえますが、実は非常になじみのある概念です。

 誘目性とは、「注意を向けていない対象の発見されやすさ」のことを指します。
 例えば街を歩いている時、特に何かを探しているわけでもないのに、ふと目に留まる鮮やかな看板、あるいは遠くからでも目立つ交通標識などです。

高彩度の暖色+写真入り看板は、無意識に視線を集めやすい(=誘目性が高い)組み合わせ
誘目性のある看板高彩度の暖色+写真入り看板は、無意識に視線を集めやすい(=誘目性が高い)組み合わせ

 花のデザインにおいても、この「誘目性」はとても重要な要素になります。特に、店舗でディスプレイするアレンジや、イベントで使用する装飾花などは、遠くからでも一目で「パッと目に入る」ことが求められます。

誘目性の高い配色のアレンジ
誘目性の高い配色のアレンジ

 では、どんな色が「誘目性が高い」とされているのでしょうか?

 一般的には無彩色より有彩色。特に高彩度色の方が誘目性が高く、また、寒色よりは暖色の方が高くなります。
 更に背景によっても誘目性は変わります。図1を見ると、背景:黒の場合は黄色が誘目性が高いのですが、白背景の場合は赤がもっとも誘目性が高くなります。

 また、青紫や紫は背景に関わらず誘目性が低いことも分かります。

図1 背景色と誘目性(注)
図1 背景色と誘目性(注)

(注)図1は、色彩検定UC級テキストP62 図1「背景色と誘目性」を基に、大まかな範囲を筆者がプロットし、読者にとって視覚的に分かりやすくなるよう再構成したものである。

彩度とは

 先ほど、高彩度の方が誘目性が高いと述べましたが、彩度とは鮮やかさのこと。
 花で例えれば、下のような色合いの花材が「彩度が高い」と言うことができます。

 一方で、「彩度が低い」花材を上げてみると、下のようなものになります。これらの花材も使い方・組み合わせ方では綺麗に表現できるのですが、こと「目立つ」という誘目性の観点からは、除外した方がいい色合い・花材となります。

視認性とは

 視認性とは、「注意を向けて探したときの対象の発見しやすさ」のことです。
 例えば、駅の構内でトイレの場所を探している時や、混雑した会場で非常口の表示を探している場面などがそれにあたります。

 自分の意識がすでに「目的の対象」に向いている状態で、それがすぐに見つかるかどうか――それが視認性の良し悪しを左右します。

 視認性を高めるためには、明度の高低差が必要になります。例えば下のような黄色背景の黒文字であれば、明度差の高低により視認性が高くなります。

視認性の高い配色
視認性の高い配色

明度とは

 視認性では明度の高低差が必要となりますが、明度とは明るさのこと。

 ただし花束において視認性を高めたい場合は、一つの花束の中に明度の高低差(コントラスト)を付けるのも効果的ですが、寧ろ背景との明度差を考え、明度の高い花材のみで構成するというのも一つの案となります。

 参考までに、明度が高い花材は下のようなものとなります。

 逆に明度が低い花材とは、例えば下のようなものとなります。

コラム:自然界における背景の「明るさ」の平均値は?

 白背景が一番明るい色となりますが、自然界での平均的な輝度の分布は、平均するとその20%ぐらいに落ち着きます。
 そのため、写真撮影の露出を決める時には、「中間の明るさ」を示す灰色の板(18%グレー)を基準に使うのが一般的です。
 
 ここでいう「輝度」とは、物理的な光の量を指し、「明るく感じるかどうか」という心理的な明るさ(明度)とは異なります。
 しかし実務では、ちょうど中間の明るさにあたる「中灰」を、自然界の標準的な背景とみなすことが多いです。

 この考え方を花の配色に応用するなら、「中灰」程度の背景を基準にし、それよりも明るい色の花材を選ぶことで、視認性の高い組み合わせがつくれます
 つまり、背景が中灰だと想定した時に、はっきりと明るいと感じられる色を選ぶのが、効果的な配色のポイントです。

図1 背景色と誘目性
図1 背景色と誘目性

とにかく目立つ花束の色は?

 ここまで「誘目性」と「視認性」という観点から、目立つ配色の原理について見てきました。それでは、実際に花束を作る際には、どのような色を使えば「とにかく目立つ花束」になるのでしょうか?

複色の花束

 まず結論から言えば、「背景との明度差が大きく、かつ高彩度な暖色系の花を中心に構成する」ことが、最も効果的です。例えば、赤・橙・黄色といった色は、遠くから見ても視界に飛び込みやすく、誘目性と視認性の両方が高い色です。

目立つ「大きさ」は?

 そしてもうひとつ、見落とされがちですが花束の「大きさ」も目立つかどうかに直結します。いくら色が鮮やかでも、小さくて遠目から認識できなければ、誘目性も視認性も十分に発揮されません

 人の視界は、まず「形・大きさ・色」の順に注目するとも言われています。つまり、大きくてはっきりした形状の花束は、視界に入りやすく、それだけで存在感を放ちます。

 下の写真はひまわり108本の花束ですが、視認性・誘目性の高い黄色をベースに、女性の上半身が完全に隠れるぐらいの大きさ
 まさに、「とにかく」目立つ花束の典型例と言えるでしょう。

ひまわり108本花束
ひまわり108本花束

まとめ

 花束を「とにかく目立たせたい」時、誘目性(無意識の視線を引きつける力)と視認性(見ようとしたときの見つけやすさ)という2つの観点から、高彩度の暖色系(赤・橙・黄)や背景との明度差を意識した配色をすることが効果的です。

暖色系の花束
暖色系の花束

 さらに、花束の「大きさ」も視界への入りやすさを左右する重要な要素です。視覚に飛び込んでくるような花束を作るには、配色・明度差・サイズ感を総合的に考えることが大切です。

ひまわり108本花束

 特別な場面で「目立たせたい」「印象に残したい」という想いを形にするには、感覚だけに頼らず、色彩理論に基づいたデザインが非常に有効です。
 花の専門家としての経験と理論の両面から導き出した提案が、皆さまの参考になれば幸いです。

この記事を書いた人

菊地充智
菊地充智代表取締役社長/1級色彩コーディネーター/UCアドバイザー
こんにちは。福島県郡山市にあるフラワーショップ アリスの代表を務めております、菊地充智です。
元教員としての経験を活かしながら、色彩の専門知識を基に、お客様一人ひとりに寄り添った花づくりを行っています。

全国の産地を自ら訪問し、生産者の声を直接伺いながら、確かな品質と生産者の想いやこだわりが詰まった花を選んでご提供しています。

また、1級色彩コーディネーター/UC(ユニバーサルカラー)アドバイザーとして、色彩の理論に基づいた花束・アレンジメントのご提案や、色彩と花に関する情報発信にも力を入れています。

ブログ記事では、花の魅力や色彩などに関する知識を、できるだけ分かりやすくお届けしています。
ご覧いただいた皆様が、花や色彩の奥深さに興味を持つきっかけになれば嬉しく思います。

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