なぜ花の色は限られているのか?~色度図で見る「花の色の限界」と花の配色~

 花はあらゆる色があるように思いがちですが、実はその色彩分布は驚くほど限られた範囲に集中しています。

 本記事では、色彩科学の視点から「なぜ花の色が限られているのか」を解説し、その知識を活かした花の配色デザインについてもご紹介します。

なぜ花の色は限られているのか?~色度図で見る「花の色の限界」と花の配色~

花の色には「範囲」がある

 私たちが日常的に目にする花の色彩は、実は驚くほど限られた範囲に集中しています。ピンク、赤、黄色、紫といった色彩は豊富に見られますが、青緑や鮮やかな緑色の花は、全くと言っていいほど自然界には存在しません。

 図1は、色彩科学ハンドブック(東京大学出版会)に掲載されている花色の分布データを参考に、主要な花の色度範囲を示したものです(白い点線で囲んだ領域)。この範囲は、自然界で実際に花が持つ色の分布を視覚的に表したものです。

図1 花色の色度分布(白の点線内)
図1 花色の色度分布(白の点線内)

注1:図1の花色の色度分布は、『新編 色彩科学ハンドブック 第3版』(東京大学出版会)p.1140 図22.11を参照し、xy色度図上におおよその範囲として筆者がプロットしたものである。

本書は色彩科学の専門家向けに編集された学術書となる。
【参考】新編 色彩科学ハンドブック 第3版(Amazon)

 このように視覚化すると、花の色は人間が知覚できる全色域のごく一部に限られていることが分かります。特に「緑の花」が少ないのは、植物が葉緑素などの緑色素を花弁に多く含まないためであり、進化的な理由や昆虫との受粉関係が関わっていると考えられています。

 この色度分布の理解は、花の配色デザインや色彩心理の観点からも重要であり、色彩と花の調和を考えるうえで基本となる知識です。

xy色度図とは

 光は電磁波の一部であり、人間が見ることができる波長範囲は380nm~780nmとなります。例えば物体から反射した380~430nmの光が人間の目の網膜に入ると、その物体は青みの紫に見え、640~780nmの光が反射すると赤に見えるといった具合です。

 この可視範囲を図に表して見やすくしたものの代表例がxy色度図(図2)となります。

図2 xy色度図
図2 xy色度図

 このxy色度図を使うと、色を「感覚的にとらえる」のではなく、「数値と位置」で正確に比較したり、範囲を示したりすることができます。

 今回示した花の色の分布も、この図を使って視覚的にわかりやすく表現しています。

花はなぜ緑色を避けるのか?

 葉や茎など植物の大部分は緑色をしています。このため、花がもし同じ緑色であれば、葉と同化してしまい、昆虫などの受粉者に見つけてもらうのが難しくなってしまいます。

 そこで多くの植物は、背景の緑とコントラストを成す赤・紫・ピンク・黄色などの色を花に持つように進化しました。

 ちなみに花の成分には「アントシアニン」や「カロテノイド」、「ペタシアニン」などが含まれますが、特に「アントシアニン」が花の発色に対する役割を持ち、昆虫の誘導に関係していると考えられています。

葉の特性

 一方、葉にはクロロフィル(葉緑素)が多く含まれています。これは光エネルギーを吸収するための色素で、主に青紫(約430nm付近)と赤(約680nm付近)の波長を吸収します。また、緑(540nm付近)の波長はほとんど吸収されず、反射された光が私たちの目に届きます。

 この光が人間の網膜に届くことで、葉が緑に見えるのです。

葉の色度分布

 図3は、色彩科学ハンドブック(東京大学出版会)に掲載されている葉色の分布データを参考に、主要な葉の色度範囲を示したものです(白い点線で囲んだ領域)

図3 葉色の色度分布
図3 葉色の色度分布

注2:図3の葉色の色度分布は、『新編 色彩科学ハンドブック 第3版』(東京大学出版会)p.1143 図22.19を参照し、xy色度図上におおよその範囲として筆者がプロットしたものである。

 以前、PCCSのカラーカードを使った実測も行いましたが、青緑の葉は一切見られず、黄緑色の葉が非常に多い印象を受けました(この点については、下記の「紅葉するとは?」のコラムでも解説しています)。

 なお、色彩科学ハンドブックによると、の色度分布の平均色度はx(赤み)=0.3449、y(緑み)=0.4016、Y(明るさ)=12.3%であり、色名としてはオリーブグリーンで代表されると記載されています。

コラム:紅葉するとは?

 銀杏の葉のように、秋になると葉が黄色く色づく現象には理由があります。

 葉には、光合成を行うためのクロロフィル(葉緑素)のほかに、キサントフィルという黄色の色素も含まれています。キサントフィルはふだん目立ちませんが、植物にとっては重要な役割を担っています。

 キサントフィルは、クロロフィルが吸収しにくい光(主に青緑の波長)を吸収して、光合成を補助する働きをしています。また、強すぎる日差しなどによる光エネルギーの過剰を抑え、植物の葉を守る「光防御」の役目も果たしています。

銀杏の葉イラスト

 夏のあいだは、クロロフィルが豊富なため葉は緑色に見えます。しかし、秋になり日照時間が短くなると、クロロフィルは徐々に分解されていきます。すると、それまで隠れていたキサントフィルの黄色が表に現れ、葉が黄色く色づいて見えるようになるのです。

 このようにして、秋には銀杏のような美しい黄色の葉が見えるのです。

自然の色の範囲を生かす花の配色デザイン

 上記に述べたように、自然界では花の色も限られるため、一定の制約が発生します。しかしながらフラワーショップ アリスでは、これまでに自然界の色の範囲や色彩心理を活かしたさまざまな配色の花束やアレンジメント、生け込みなどをご紹介してきました。
 
 以下に、代表的な配色事例や色彩心理の特集ページをご紹介します。ぜひ、興味のあるテーマをご覧ください。

補色~グリーンとピンクの組み合わせ~

補色~グリーンとピンクの組み合わせ~

補色関係を活かした春らしい配色。

配色イメージで変わる!フラワーアレンジの魅力と実践例

配色イメージで変わる!フラワーアレンジの魅力と実践例

カジュアル・フレッシュナチュラルなどのイメージと配色。

まとめ

 花の色の範囲は、皆さんが思った以上に少ないことがお分かりになられたかと思います。
 しかしながらフラワーショップ アリスでは、この様な花の色の制約を科学的な知識と色彩心理に基づき、効果的な配色デザインに活かす工夫を重ねています。

 どのように調和とコントラストを生み出すかは、花のデザインにおいて極めて重要です。
 また、色彩科学の理論を踏まえれば、単なる感覚や流行に頼らない説得力のある配色が実現できます。

 本記事で紹介した事例のように、色彩理論と経験に裏打ちされた花の配色は、贈る方・受け取る方の双方に深い感動や印象を残します。

 フラワーショップ アリスでは、今後も自然の色彩の魅力と科学的知見を融合させ、より魅力的なデザインをご提案したいと考えております。 

この記事を書いた人

菊地充智
菊地充智代表取締役社長・1級色彩コーディネーター
こんにちは。福島県郡山市にあるフラワーショップ アリスの代表を務めております、菊地充智です。
元教員としての経験を活かしながら、色彩の専門知識を基に、お客様一人ひとりに寄り添った花づくりを行っています。

全国の産地を自ら訪問し、生産者の声を直接伺いながら、確かな品質と生産者の想いやこだわりが詰まった花を選んでご提供しています。

また、1級色彩コーディネーターとして、色彩の理論に基づいた花束・アレンジメントのご提案や、色彩と花に関する情報発信にも力を入れています。

ブログ記事では、花の魅力や色彩などに関する知識を、できるだけ分かりやすくお届けしています。
ご覧いただいた皆様が、花や色彩の奥深さに興味を持つきっかけになれば嬉しく思います。

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