プロのフローリストが教える:花に色をつける独自の技術とは?

 自然界では見られない色彩、たとえば金色や銀色の花を作りたいと思ったことはありませんか?
 または、特定のイベントやテーマに合わせて、花の色を変えたいと思ったことはありますか?

 本記事では、フローリストが花に新しい色を付ける主な方法を2つご紹介します。
 これらの手法を使えば、あなた自身も花の色を変えて、あなただけの特別なアレンジメントを作ることが可能です。

 花の美しさを新たなレベルに引き上げるためのヒントとテクニックを探求する旅に、ぜひ一緒に出かけましょう。

プロのフローリストが教える:花に色をつける独自の技術とは?

①花専用のスプレーを使う

 下の写真は結婚式にとのことでご注文を受けたフラワーアレンジメント。きらびやかにとのことで、今回は一部花材に花専用の金色のスプレーも使ってみました。

 吹きかけるとこんな感じです。粒子が細かく均一ですので、きれいに染め上がります。

 使ったスプレーはスミザーズオアシス社製のもの。今回はゴールドのみの使用ですが、ラメの入った「グリッタースプレー」というものもあります。

 スプレーの成分にはアセトンもあるため、使用中は火気厳禁です。

 ラメの入ったグリッタースプレーも、キラキラと光ってきれいに仕上がります。

 スミザーズオアシス社製のカラースプレーには、金や銀色の他に、青や赤などの色合いもあります。

 フラワーショップ アリスでは「ゴールド」と「シルバー」の2種類だけは自然界に無く、更に吸い上げでも表現できない色なので、この2つのカラースプレーは必ず常備しております。

青のスプレーを使った実践例

 下の写真は青のスプレーを使った実践例。生花祭壇の一部を撮影したものと生花祭壇の全体画像。
 今回は、水色のスプレーを白のスイートピーに、青のスプレーをグリーンの一輪カーネーションに使用しました。

 「青の花材」は非常に限られますので、生花祭壇で「青を基調に一部黄色を入れて」といった特殊用途の場合、このようなスプレーを使って色を染めることも選択肢の一つとして入ってきます。

 スプレーを使うと色を吸わせるよりも圧倒的に早く染め上がりますので、使い勝手が非常にいいと思います。ただし、塗布したばかりですとアセトンなどの匂いがきついので、換気は必須です。

 スプレーはオアシス社製のもの。♯137のデルフィニウムブルーと♯135のハイドレンジアブルーを使用しています。ちなみにこのスプレー缶は花専用のものですので、一般にホームセンターなどで売られている数百円で入手できるスプレー缶とは成分が違い、定価3400円の業務用のものです。

 数百円で入手できる一般的なスプレーは花専用のスプレーと成分が違いますので、花に色を塗布する場合は、花専用の業務用のものを使って頂ければと思います(注1)

(注1)花専用スプレーと、廉価な汎用スプレーの違いは?

  1. 成分の安全性と特性
    • 花専用スプレー:花専用のスプレーは、一般に花に優しい成分を使用しています。これは、花の繊細な構造や色を維持するために必要です。これらのスプレーは、通常、花の色を損なわないように設計されており、花に直接吹き付けても安全であるとされる成分が含まれています。
    • 汎用スプレー:一方、汎用のスプレーはさまざまな目的で使用されることを想定しており、その成分はより広範な用途に適しています。しかし、これらの製品には花や他の繊細な材料に対して強すぎる化学物質が含まれていることがあります。
  2. 化学物質の濃度と種類
    • 花専用スプレーは、花に有害な可能性が低い、より穏やかな化学物質を含む可能性が高いです。また、花への影響を最小限に抑えるために特別に調合されていることが多いです。
    • 汎用スプレーは、塗装や防錆などのより一般的な用途のために設計されているため、それに適した強力な化学物質を含むことがあります。
  3. 使用目的
    • 花専用スプレーは、花の美しさを強調するために使用され、しばしば色彩の強化や特定の効果を出すために用いられます。
    • 汎用スプレーは、防水、防錆、または装飾的な塗装など、より多岐にわたる用途のために使用されます。

スプレー染色の注意点

 花材に即座に色を追加したい場合、専用のスプレーが効率的な選択肢となります。しかし、スプレーを用いた染色法にはいくつかの注意点が存在します。

  1. 安全性:スプレーの成分には一般的にアセトンや他の揮発性の化学物質が含まれています。これらの物質は火気に接触すると引火する可能性があります。したがって、使用する際には火気厳禁とし、換気が良好な場所で行うことが重要です。
  2. 色の範囲:特別な色、例えば金色や銀色は自然界に存在せず、染料による吸収法でも表現が難しい色です。これらの色を表現するためには専用のスプレーの使用が必要となりますが、スプレーの色は決まっているため、選択肢は限られてしまいます。

②色を吸わせる

 弊社ホームページ「染めバラのメリット・デメリット」でも述べましたが、染料を吸わせて色を付ける方法もあります。

 難点はいくつかあるのですが、一つにはカラースプレーに比べて吸い上げと着色に時間がかかること。

 カラースプレーでは一瞬ですが、上記写真のガーベラぐらい染めようとすると、最短で半日(12時間程度)はかかります。

 ちなみに白百合に12時間以上色を吸わせるとこんな感じになります。

 こちらは完成品。実は白百合だけでは無く、胡蝶蘭も色を吸わせています。ただし、胡蝶蘭は色の吸い上げが遅いため、12時間以上色を吸い上げても、中心部分ぐらいしか色が変わりません。

花ごとの色の吸収性:時間と色のダンス

 花の色の吸収性、つまり花がどれくらい早く染料を吸収するかは、花の種類によって大きく異なります。これは花びらの表面が染料をどれだけ吸収しやすいかによる部分が大きいです。

 例えば、白百合を考えてみましょう。白百合の花びらは比較的なめらかで、染料を素早く吸収します。それゆえ、白百合を特定の色に染めたいときは、通常12時間程度花を染料に浸すことで十分な色付けが可能となります。

 一方、他の種類の花、例えば胡蝶蘭は、花びらが比較的固く、染料を吸収しにくい特性があります。したがって胡蝶蘭を色付けしようとすると、花を染料に浸す時間は白百合よりも長くなります。しかも、十分な時間染料に浸しても、花の中心部分ぐらいしか色が変わらないことが一般的です。

 要するに、花の色を自在に変えるには、それぞれの花がどれほど早く染料を吸収するかを理解することが大切となります。そしてその理解に基づいて、染料の濃度や花を染料に浸す時間を調整することが求められます。

染料の吸収性に優れた花とそうでない花の代表例

染料の吸収性に優れた花

  1. 白百合:白百合の花びらは比較的滑らかで、染料を素早く吸収します。通常、白百合を特定の色に染めたいときは、12時間程度花を染料に浸すことで十分な色付けが可能となります。
  2. カーネーション:カーネーションもまた、吸収性に優れています。特に白いカーネーションは水分を効率よく吸収し、染料も一緒に吸い上げるため、色付けが比較的容易です。
  3. ダリア:白や淡い色のダリアは、染料を非常によく吸収します。花びらが多層構造になっているため、見事な色彩の変化を表現でき、絶妙なグラデーション効果を生み出すことが可能です。

染料の吸収性が弱い花

  1. 胡蝶蘭:胡蝶蘭の花びらは比較的固く、染料を吸収しにくい特性があります。したがって、胡蝶蘭を色付けしようとすると、花を染料に浸す時間は白百合やカーネーションよりも長くなります。しかも、十分な時間染料に浸しても、花の中心部分ぐらいしか色が変わらないことが一般的です。
  2. チューリップ:チューリップの花びらは比較的厚いため、染料を吸収するのに時間がかかります。特に濃い色のチューリップは染色が難しいとされています。しかし、白や淡い色のチューリップを用いれば、そこそこの成功率で染色を行うことができます。

 実際には、花の種類だけでなく、その成長状況や花びらの状態、そして使用する染料の種類や濃度など、さまざまな要素が染色結果に影響を及ぼします。したがって、それぞれの花に最適な染色方法と時間を見つけるためには、ある程度の試行錯誤が必要です。

植物が本来持っている自然な色を使うのが一番いいのではあるが

 もちろん、植物が本来持っている自然な色を使うのが、花持ちの観点からも一番いいのですが、どうしてもその色にこだわって「この色が必要だ」という場合は、染色が必要です。

 下の写真はイタリア国旗をモチーフにした祝花。こちらは全ての花材が本来持っている自然な色合いを使っての制作。

 この写真のように、大抵の色合いは花材が変わっても何らかを使って表現できますが、金色や銀色の花材は自然界に存在していません。更に青(ブルー)色の花材はほとんどなく、あっても「季節限定」となり、通年で確保することができません。

 こういったポイントでの使用の際には、上記で述べた「スプレーを使う方法」か「色を吸わせる方法」を使う必要があります。

自然界には存在しない銀色の花を、どのような色と組み合わせるのが最適でしょうか?

 弊社ブログ記事「銀色の花材とその配色の探求: 銀ホーリーとトーンオントーンの実践」では、自然界に無い銀色に染めた花材とブルーの色調の組み合わせについて、具体的な実践例とともに考察を行いました。

 銀色の花材と他の色との組み合わせについて探求している方、または新しいアイデアを探している方は、ぜひこの記事をご覧いただければと思います。

この記事を書いた人

菊地充智
菊地充智代表取締役社長
 こんにちは。フラワーショップ アリスの代表取締役、菊地 充智と申します。
 福島県本宮市出身で、元々は教員として子どもたちの教育に尽力していました。その経験は私にとって大切な基礎となり、人と心を通わせる重要性や、強い絆を築くことの意味を深く理解させてくれました。

 2007年、私は新たな挑戦としてフラワーショップ アリスに加わりました。それ以来、花々と共に日々成長し、お客様に最善のサービスを提供するために常に努力しています。
 そして、花の美しさとそれぞれの物語をより深く理解し、お客様に届けるため、全国の花の産地を訪れています。

 私の経営理念は、お客様に最高の満足を提供し、常に改善と修正を行いながら、お客様にとってベストの選択を追求することです。この理念は、私が書く文章にも反映されています。

 皆さんが私の記事を通して、花の世界の美しさや、そこに込められた物語を感じ取っていただければ幸いです。それが私が記事を書く大きなモチベーションとなっています。どうぞよろしくお願いいたします。

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