銀色の花材とその配色の探求: 銀ホーリーとトーンオントーンの実践

 冬の訪れとともにクリスマスシーズンが近づき、我々の視界には特異な銀色の花材が頻繁に登場します。

 その中でも「銀ホーリー」、つまり銀色に染められた西洋ヒイラギは、そのユニークな色合いが生け込みに独特な魅力を与えてくれます。

 しかし、その色合いが普段使われる自然の花材とは一線を画すため、どのように配色すればよいのかは一見すると難しそうです。
 そこで本稿では、銀ホーリーと他の花材との組み合わせ、特にブルー系の花材とのトーンオントーン配色について詳しく解説します。

銀色の花材とその配色の探求: 銀ホーリーとトーンオントーンの実践

銀ホーリーとは何か?

 銀色の花材は銀ホーリー。西洋ヒイラギを銀色で染めたものです。クリスマスが近づいてきましたので、市場にはこのような銀色や白に染色した花材が比較的多く入荷してきます。

 この西洋ヒイラギは生産者が生木で伐採したものを、色の付いた液に浸して染め上げたものです。

銀色の理論と実際の配色法

銀色の色彩学的特性

 銀色は色相環図に具体的には存在しません。これは、銀色が光の反射や物質のテクスチャによって生じる色彩であり、彩度や色相が低く、無彩色に近い特性を持つからです。

 また、色彩学的には、シルバー(銀色)はブルー(青色)の仲間とは言えません。銀色は光の反射や表面の質感によって生まれる色であり、彩度や色相が低い、つまり無彩色に近いと考えられます。

 基本的には、銀色は灰色や白色に近く、その輝きは光の反射や物質のテクスチャによって生じるものです。

銀色と他の色との関係性

 しかし、視覚的な印象や芸術の世界では、ブルーとシルバーを組み合わせることがしばしばあります。これは、両者がクールな印象を持ち、一緒に使われると洗練された雰囲気を作り出すからです。

 また、銀色の物体が周囲の色を反射する性質を活かし、ブルーとの組み合わせは自然界の水や空などとの連想も呼びます。

「トーンオントーン」の配色法と銀色

 今回私が試みたのは、「トーンオントーン」の配色法です。これは「トーンを重ねる」という意味で、色相は同一または類似色相で、明度差を大きく取った配色を指します。

 同系色の濃淡とも言われる配色法です。銀色と青系の色相を組み合わせることで、「トーンオントーン」の原則に基づいた美しい配色を実現しました。

 それは、銀色がその反射性質により、周囲の色、今回であれば青系の色相を引き立て、深みのある表現を生み出すからです。ただし、この配色は特定の視点からの解釈であり、厳密な色彩理論からは異なる解釈が可能です。

銀色とブルー系の花材の組み合わせ

 今回の作品では、デルフィニウムというブルー系の花材と、深みのある紫色のトルコキキョウ「マリッサブルー」、さらに薄い紫色のストック「アーリーマリンアイアン」を使用しました。

 これらは、色彩の面から考えると、類似色相による配色となります。その結果、花々の色彩が互いに補完し合い、全体として統一感のある美しい調和を生み出しています。

 銀色の銀ホーリーとブルーのデルフィニウムの組み合わせについて考えると、銀ホーリーの色は彩度が低く、色彩的にはデルフィニウムのブルーとは異なる色相を持っています。しかし、これらの色のコントラストとバランスが作品に深みと複雑さをもたらし、視覚的に引き立つ効果を生み出します。

 しかし、完全な「トーンオントーン」の「同一色相」配色を達成するには、同じ色相の異なる明度の色材が必要となります。今回の場合、11月中旬という時期にはデルフィニウム以外の青色の花材が手に入らなかったため、それは達成できませんでした。

 それでも、「トーンオントーン」の一部である「類似色相」の原則に基づいて、銀ホーリーとブルー系、そして紫系の花材との組み合わせを試みました。

 青と紫は色相環図上で隣接する色相であり、互いに類似した色相を持つため、「類似色相」と言えます。

 それぞれが異なる色相と明度を持ちながらも、これらの色材は美しく調和し、色彩の深みと豊かさを作品全体に広げています。
 このように、厳密な「トーンオントーン」が達成できなくても、類似色相を利用することで色彩の一体感と豊かさを生み出すことが可能です。

明度の違いを活かした配色

 配色の選択においては、色彩だけではなく、その色の明度も重要な要素となります。色相や彩度が同じでも、明度の違いによって見え方や雰囲気は大きく変わります。

 白のユリと白のアンスリウムを使用した今回の作品では、トーンオントーンの配色を強調して、青色の明度を極限まで上げ、白色に近づけることで自然な配色を実現しました。

青色と明度

 青色は色彩理論上、明度を極限まで上げると白色になる性質を持っています。そのため、白色を加えることは自然な配色と言えます。

 しかし、明度を極限まで下げると黒になる性質を持つため、黒を取り入れることで深みを出すことも可能です。ただし、黒の花材はほとんど市場に出回っていないため、花材選びの制限が発想を阻む可能性があります。

銀色の利用

 銀色は自然界に存在しない色であり、配色上難易度が高いと言えます。しかし、その反射性を活用して周囲のブルー系色相の反射と相互作用させることで、トーンオントーンや補色の配色法を活用し、美しくまとまる作品を作り出すことができます。

銀色と赤色の組み合わせ

 クリスマスシーズンを象徴する銀色と赤色の組み合わせは、色彩理論的に見ると必ずしも最良の組み合わせとは言えません。そのため、補色や類似色とは異なる配色を試みたい場合には、「青」「赤」「黄色」の3色配色を取り入れると、色彩的なバランスが取れます。

赤色のアクセント:視覚的強調と活気の追求

 赤色は、その鮮やかさと活気により、作品に強い視覚的な強調をもたらします。銀色とブルー系の配色を基調にしながら、赤色の花材をアクセントとして取り入れることで、作品に一層の活気と表現力を付け加えることが可能になります。もし赤色を加えるとすれば、赤色のバラやガーベラなどが具体的な花材として考えられます。

 このように、色彩理論を応用しつつ、花材の選択や配色の工夫を通じて、独自の美的表現を追求することが重要となります。この探求は、花のアレンジメントや生け込みが単なる装飾でなく、深い芸術性を持つ表現形式であると言えます。

まとめ

 花材の選択は、花のアレンジメントや生け込みにおける重要な課題です。特に、銀色と相性の良いブルー系の花材は稀少で、容易には入手できないのが現状です。しかしながら、創造性と工夫を駆使すれば、限られた花材からでも魅力的な配色を生み出すことは可能です。

 例えば、銀ホーリーの銀色を基調に、さまざまな色彩と明度の花材を巧みに組み合わせて、独自の花の表現を追求することができます。このようなアプローチは、花材の選択に制限がある場合でも、美しさと同時に、深みと複雑さを持つ作品を作り出すことを可能にします。

 

使用花材

・銀ホーリー・デルフィニウム・ストック「アーリーマリンアイアン」・オリエンタルユリ「ザンベジ」・トルコキキョウ「マリッサブルー」・アンスリウム・紅葉ヒペリカム

この記事を書いた人

菊地充智
菊地充智代表取締役社長
 こんにちは。フラワーショップ アリスの代表取締役、菊地 充智と申します。
 福島県本宮市出身で、元々は教員として子どもたちの教育に尽力していました。その経験は私にとって大切な基礎となり、人と心を通わせる重要性や、強い絆を築くことの意味を深く理解させてくれました。

 2007年、私は新たな挑戦としてフラワーショップ アリスに加わりました。それ以来、花々と共に日々成長し、お客様に最善のサービスを提供するために常に努力しています。
 そして、花の美しさとそれぞれの物語をより深く理解し、お客様に届けるため、全国の花の産地を訪れています。

 私の経営理念は、お客様に最高の満足を提供し、常に改善と修正を行いながら、お客様にとってベストの選択を追求することです。この理念は、私が書く文章にも反映されています。

 皆さんが私の記事を通して、花の世界の美しさや、そこに込められた物語を感じ取っていただければ幸いです。それが私が記事を書く大きなモチベーションとなっています。どうぞよろしくお願いいたします。

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